コラム


by katorishu
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「秋風秋雨人を愁殺す」(武田泰淳作)を一気に読了 

 5月2日(土)
■武田泰淳作の「秋風秋雨人を愁殺す」を一気に読了した。辛亥革命で清朝を倒した革命家の女性、秋キン(王へんに謹から言偏をとった字)女史の苛烈な人生を描いた史伝であり、大変面白かった。辛亥革命は孫文が起こしたと歴史の教科書には記されているが、秋キン女史ら数多くの「志士」たちの屍が一方にあり、光にたいし影の部分を演じたことが、よくわかる。

■彼女は二児の子をもうけながら夫と離婚したあと、日本に留学した。日清、日露の戦争に勝った日本には、古いアジアを打倒するため「日本に学べ」とばかり、中国の有為の青年たちが留学していた。日本が辛亥革命の「発信基地」のようになっていたのである。

■秋キン女史は実践女子に学び、日本刀を愛用するなど男子顔負けの激しい気性の女性だった。が、写真で見る秋キンは、良家の子女然とした上品な面立ちの「美女」である。紹興酒で知られる紹興の出身で、魯迅などの文学者とも同郷である。「三国志」などとはまた違った趣の「人間ドラマ」が革命の醸成期には生まれるのだな、とあらためて思う。久しぶりにワクワクする思いで読んだ。

■この本がかかれたのは1965年。ちょうど中国では文化大革命が進行中で、作者の武田泰淳はそのさなか、作家の永井路子氏らとともに中国を取材で訪れた。外国人が珍しかったようで、紹興にいくと住民がものめずらしい生き物を見るように多数よってきて大変だったという。

■この本、仕事の必要もあって図書館から借りて読んだのだが、じつは以前に書店から購入していた。が、どこにまぎれたのかわからず、探すのも面倒なので借りた。あるはずの本をアマゾンで買ったりもする。本などが多すぎることもあるが、整理の悪さも一因である。
 それにしても、本は面白い。武田泰淳作の本書など、本でなければ醍醐味を味わうことはできない。秋キン女史を主人公にした映画をつくったら面白いと思うが、膨大な費用がかかるし、今はどこもチャレンジしないだろう。本でしか味わうスベもないことが、世の中には多い。
by katorishu | 2009-05-03 00:25 | 文化一般