コラム


by katorishu
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クリント・イーストウッド監督主演映画『グラン・トリノ』は映画の見本 

  5月5日(火)
■雨降りの1日。天気がよければ旧東海道を大森方面まで小一時間歩こうとおもっていたのだが、やめた。子供の日なので子供関連の記事が新聞にでていたが、総人口にしめる14歳以下の子供の比率は世界でもっとも低く、逆に65歳以上の人のしめる比率は世界でもっとも多いとのこと。

■人口構成で極めて「異常な国」になってしまった。この歪みは今後数十年間、日本の社会や文化をゆがめ、さまざなな問題を派生させるに違いない。
 本日、昼間はずっと仕事をしていたので、気分転換にと20時55分より品川プリンスシネマで老人を主人公にした映画『グラン・トリノ』を見た。アカデミー賞を受賞した『ミリオンダラー・ベイビー』以来、4年ぶりにクリント・イーストウッドが監督・主演をつとめた映画である。

■「朝鮮戦争従軍経験を持つ気難しい主人公が、近所に引っ越してきたアジア系移民一家との交流を通して、自身の偏見に直面し葛藤(かっとう)する姿を描く。イーストウッド演じる主人公と友情を育む少年タオにふんしたビー・ヴァン、彼の姉役のアニー・ハーなどほとんど無名の役者を起用。アメリカに暮らす少数民族を温かなまなざしで見つめた物語。(シネマトゥデイ)

■妻に先立たれ、息子たちとも疎遠な元軍人のウォルト(クリント・イーストウッド)は、自動車工の仕事を引退して以来単調な生活を送っていた。そんなある日、愛車グラン・トリノが盗まれそうになったことをきっかけに、アジア系移民の少年タオ(ビー・ヴァン)と知り合う。やがて二人の間に芽生えた友情は、それぞれの人生を大きく変えていく。(シネマトゥデイ)

■出だしから画面にひきつけられた。中国とタイ、ラオス国境地域に住むモン族の隣人を、当初嫌悪し差別していたポーランド系アメリカ人ウォルトが、じょじょに隣家の住人に心を開いていく様が、鮮やかに描かれる。彼はフォードで自動車工として勤め上げてきたが、妻の死によって孤独で偏屈な一人暮らしの老人となる。隣家のタオの妹が同じモン族の親戚の無軌道な若者に暴行をうけ、怒ったウォルトが最後にとる行動は、衝撃的である。彼は朝鮮戦争に米軍兵士として参加し、朝鮮人の若者を殺したことが心の傷となっている。子供たちや孫からも「偏屈なおじいちゃん」と見られているが、隣家のタオという若者を通じて、若者をかえると同時に自分自身もかわっていく。生と死という問題を背後にやどした「社会派』映画である一方、随所で「笑わせて」くれる。隙のない構成、脚本、演出、演技……どれをとっても見事というほかない。

■ヒーローも美男美女も一人も登場しないが、ワンカットも無駄なものがなく、画面にひきつけられる。じょじょに感動をもりあげ、時に笑いを演じつつ、最後の衝撃的な場面にもっていく。構成も巧みだし、会話も含蓄があり上出来。役者の演出力も秀逸で、今年ぼくの見た映画では「ベスト1」である。ハリウッド映画にしてはあまり費用もかかっていない。クリント・イーストウッドのかかわる映画に、はずれは少ないが、この『グラン・トリノ』は秀逸で、『ミリオンダラー・ベイビー』より面白かった。映画の見本といってもいい映画である。見終わったあと、映画の良さをしみじみと感じることができたた。

■巨額の制作資金と巨額の宣伝費をかけたハリウッド映画は、たいていこけおどかしで深みにかけ、大味だが、こういう佳品もしばしば作られる。終わりのスタッフのロールのところに、シナリオ・アナリストなどの名前がのっていた。まず面白く心をうつ脚本があってこその佳作である。役者の演技力、演出力どれをとっても文句のつけようがない。映画ファンならずとも、ぜひ見て欲しい映画だ。見ればきっとあなたは映画を好きになる。
by katorishu | 2009-05-06 02:07 | 映画演劇