コラム


by katorishu
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現代中国文学の傑作『至福の時』を読んだ

7月8日(水)
■現代中国文学の作家の作品を久々に読んだ。『至福のとき』で作者は莫言。莫言氏はチャン・イー・モウ監督で映画化された「赤いコーリャン」の原作を書いた人。この作も「幸福時光」というタイトルでチャン・イー・モウ監督で映画化された。現代中国でもっともノーベル文学賞受賞に近い位置にいる作家である。

■魯迅を思わせる風刺と笑いをふくんだ中編で大変面白かった。氏は小説芸術の可能性は「果てしなき宇宙同様に極め尽くされることがない」と後書きで書いている。1955年、貧しい農家に生まれた。文革を子供のころ体験。その後、人民解放軍に入ったが、文学に目覚め作家に。以後、意欲作を書き続けている。

■自作がパターン化、類型化になるのを避けるため、常に実験的試みをしており、日本でももっと読まれてよい作家だろう。仕事の必要もあって中国関係の資料や本を読んでいるのだが、本日読んだ新書の『ルポ中国「欲望天国」』(富坂聡著)も大変刺激的で、中国のかかえているエネルギーと、無秩序のなかの秩序について深く考えさせられた。汚職、犯罪などの負の面も、中国は日本と段違いにすごい。この現実に比べれば、日本などほんとうに「穏やかな」国といえる。良くも悪くも過剰な人口故に過剰なエネルギーをかかえた中国が、世界をリードしていくことになるのだろう。この国を抜きに世界を語ることはできなくなっている。

■夜、新宿で東京コメディ倶楽部いこい座の公演を見た。阿木翁助作のラジオドラマ「青いカナリア」の朗読劇と、「君愛せし山河」の2本。阿木翁助氏は戦前、ムーラン・ルージュ時代から劇作を志し、戦後はラジオドラマ、初期のテレビドラマの脚本を数多く執筆した。日本テレビの制作局長ともなり、多くの劇作家にテレビドラマを書かせた人としても知られる。日本放送作家協会の理事長もつとめられ、6年ほど前90歳で亡くなられた。戦前、ムーラン・ルージュに執筆した「女中哀史」はムーラン・ルージュの代表作。根底にヒューマニズムを宿し、真摯に人の生きる様に迫る。そんな阿木氏の脚本のような作品が、じつに少なくなった。
by katorishu | 2009-07-08 23:40 | 新聞・出版