ネット版の購読料を値上げしたアメリカ地方紙の試みに注目
2009年 11月 14日
■ニューズイークが活字メディアの未来についての特集を行っている。活字メディアにかわってインターネットが主流になるという論調はもう聞き飽きたが、注目される情報があった。「ある地方紙の一発逆転」という項目で、ジョニー・ロバーツという人の報告によると、アメリカのロードアイランド州ニューポートで、この夏以降「珍現象」が起こっているという。
■この町はヨット愛好家の集まるリゾート地として知られているが、地元紙のニューポート・デーリー・ニュースがオンライン版を有料化し、利用料を通常の定期購読より200ドルも高い345ドルに設定したところ、紙のほうの同紙の定期購読をやめる人が減ったという。
■以前はインターネットで読めるからと、解約する人があとを絶たなかったのに。たとえばウェブ版のほとんどの記事が有料になると、たとえ大雨が降っていてもわざわざ外に新聞を買いに行く人が増えたそうだ。有料化後、新聞スタンドでの売り上げは1日あたり200部増加した。1万3000の発行部数の同紙にとっては、200部増は画期的なことであるそうだ。
■アメリカのあらゆる新聞社が、同紙の行方を今固唾をのんで見守っているという。各紙ともネット版を無料公開して、収益は広告で……というビジネスモデルを考えているようだが、それはビジネスモデルとして成り立たなくなっている。そんななか、ニューポート・デーリー・ニュースの試みは、注目すべきことだ。もっとも日本の大マスコミのように、どこのメディアも記者クラブでとった「同じ情報」を流していては、こういうことにならない。
■アメリカの地方紙は、この新聞でしか読めない情報があるからこそ、人はわざわざ新聞を買いにいく。少人数で経費のあまりかからない運営をつづける組織に勝利の女神がほほえむのかどうか。ぼくも注目している。これは雑誌などにもいえる。インターネット時代、いつの間にか、「情報」は無料という意識が定着してしまったが、じつは無料の情報は、それなりのものである。本当に欲しい情報、価値のある情報は有料で……という考えのほうが、まっとうである。「情報のプロ」も大事なのである。膨大な情報を、短い文章にまとめてわかりやすく提示するというのも、「情報のプロ」、つまりジャーナリストなどの能力である。
■世界は本格的なインターネット時代をむかえてからまだ日も浅く、すべてが未完成品と考えたほうがいだろう。今後、試行錯誤をかさねながら、新しい情報伝達の仕組みが確立されていくにちがいない。過渡期の今は「戦国時代」といってもよい。現実の日本の政治でも戦国の世は100年つづいた。メディアの戦国時代はそんなに長く続くはずもなく、あと10年か20年で、「落ち着くべき所」に落ち着くのではないか。それまで、こちらは生きているかどうか。いや、その前に地球がもつかどうか。こちらも未知数である。