コラム


by katorishu
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お茶の水界隈、手触り感がなくなった 

  12月4日(金)
■数年ぶりにお茶の水界隈にいった。この駅の近くにある有名なI眼科クリニックで緑内症の疑いがあるかどうか検査をうけにいった。自宅近くの眼科の個人病院ではグレーゾーンといわれ、気になるので信頼のおける専門医に診てもらった。商売柄目は大事にしたいので。検査の結果、疑いはほぼ解消という結論である。2ヶ月後に念のため視野検査を実施することになっているが。

■このI眼科クリニックには専門医が11人いて、最新の高価な検査機器を備えている。先日視てもらった個人眼科医院の数倍もの細かい検査を行ったので、診療費もそれなりに高いかと思ったら逆で、こちらのほうがずっと安かった。個人眼科医院が割高であり、しかも検査結果がよくわからない。やはり、個人クリニックは風邪程度ならいいが、それ以上は限界がある。専門医とはレベルが格段に違うことを実感した。

■これは他の「専門業種」にもいえることで、一口に「資格取得者」といっても、ピンとキリでは雲泥の差である。どの分野でもそうだが「一流」の組織、「一流の人」に接しないと、ダメであるな、とあらためて思ったことだった。クリニックはビルの19階にある。窓から見える景色が、快晴の天気で鮮明に浮き上がって見えたので、診療が終わったあと、湯麺をたべ、お茶の水界隈を散策した。検査のため瞳孔を拡大する液体を目にさされたので、風景がややかすんで見える。

■明治大学が校舎を新築し、どこぞのホテルかと見まがう建物になっていた。この界隈の大学といえば、以前は古くてかなり汚いものであり、それもまた味わいがあったのだが。付近の建物もみんな新しくなった。町は変わるものなので、当たり前の話であるが。著名な文士等に愛された山の上ホテルは以前のままの姿でたっている。明治大学の前の通りの向側が大久保彦左衛門の旧宅跡であることを本日初めて知った。

■駿河台の坂を下り神保町方面にいくと、有名な古本屋街だが、以前に比べ店の数が減ったようだ。よく足を運んだ喫茶店なども大半は消えてなくなった。喫茶店そのものが減っており、結局、スタバにはいって、くもった目で原稿の推敲作業。思い出した。1970年代初め、なんの用事でいったのか忘れたが、駿河台の坂の途中、ちょうど明治大学のたっている付近の道を歩いていると、突然10数人もの学生が道路に椅子やテーブルをもちだし封鎖しはじめた。手拭いで覆面をしヘルメットをかぶっていた気もする。

■間もなく機動隊がやってきた。学生の数もふえ、機動隊への投石がはじまった。野次馬として学生と機動隊の衝突をじっと見ていた。やがて機動隊が棍棒をふりあげ学生を追い払う行動にでた。人並みが乱れ、怒号がとびかう。逮捕されてはたまらないので、道路ぞいのパチンコ屋に逃げ込んだ。翌日の新聞に「神田カルチェラタン」という文字が踊っていたという気がする。いわゆる全共闘運動のはしりの出来事だった。善し悪しは別にして、若者にエネルギーが横溢していて、世の中が変わるかなと思わせる騒ぎだった。

■結局、何もかわらず、東大安田講堂事件や連合赤軍事件等々で、あの過剰なエネルギーは封じ込められ、どこかに消えていった。その後、産業戦士として「高度成長」を支えるエネルギーに転化されたようだが。その流れの果てが、今の日本である。あの学生たちは「団塊の世代」とよばれた。今、その世代のジュニアが社会の主力になりつつある。

■そんな世代の次の次ぐらいが、大学生になっているのだろう。世代とは普通10年ほどの単位である。界隈は確かにきれいで、清潔感のある街になった。が、何かが決定的に失われたなと思った。なんであろうと考えつつ歩いていて、失われたのは「手触り感」であるなと思った。19階のクリニックの窓から見える都心の光景のなかで、もっとも存在感を見せていたのは、森に囲まれた湯島天神と神田川であった。自然がわずかに残っているところで、ここには「手触り感」がわすかに残っている。この「手触り感」のある飲食店も、本当にすくなくなった。この界隈、馴染みの酒場などもないので、スタバ以外にどこにも寄らず、何も買わずに帰宅した。「手触り感」。これを回復することが、日本の劣化をすくう道につながると思うのだが、手触り感の良さを味わえる人が少数派になっているので、無理でしょうね。かくて、人工的な「手触り感」がつくりだされて「ビジネス」となっているが、人工的な手触り感というのは形容矛盾である。「手触り感まがい」が今はやりつつある。
by katorishu | 2009-12-04 23:13 | 文化一般