コラム


by katorishu
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「本物」「実物」は「複製」や「デジタル」とは違う

 2月14日(日)
■昨日は雨降りの寒い1日だったが、竹橋の国立近代美術館にいき、戦後を代表するグラフィック・デザイナーの早川良雄氏の回顧展を見た。早川氏は去年90歳すぎの高齢でなくなった。カミサンが世話になった「恩人」でもあり、見にいかなくちゃというので、脳の疲れを癒す意味もあるかなと思って、同行した。

■こういう機会でもないと、なかなか美術館に足を運ばない。早川氏が「文学界」や「宣伝会議」の表紙絵をも描いていたことを、この展示会で初めて知った。そのほか常設展では美術館所蔵の著名画家の絵を展示しており、なかでも岸田劉生の『麗子像』が強く印象にのこった。美術本などで何度も目にした馴染みのある絵であるが、実物を目にするのは初めてだった。質感や手ざわり感は、やはり本物をこの目で見ないとわからない。しばし、本物を見続け、あらためてこの絵の価値がよくわかった。

■梅原龍三郎や東山魁夷など「国宝級」の絵も展示されていた。近代美術館には9000点の作品が所蔵されているそうだ。「複製」や「デジタル映像」でもかなりの程度作品の良さは伝わるが、「肉眼」で見るのとは違う。やはり、「本物」「実物」を、この目で見、この耳で聞く、この胸で吸うこと、つまり5感を働かせて味わうことの大事さを思った。

■雨降りの寒い日なので見学者は少ないと思っていたが、まずまずの人がやってきていた。なかでも目立ったのは欧米人の姿で、3人に1人は欧米人という印象だった。彼等の風貌が知的であるという点が、ほかの「イベント」にやってくる人と際だって違う。

■銀座のデパートなどでよく目にする中国人をはじめアジア系は、皆無。「後進国」に属するアジア系は「文化・芸術」より、形のある物や快適な生活のツールや食べ物にしか興味がないのかなと思ったりした。良くも悪くも、これからの世界を動かしていくのは、中国である。沸騰するエネルギーと巨大な人口が、日本にとって「救い」となるか「災い」となるか、よくわからない。

■その中国を象徴するような映画を図書館で借りたDVDで見た。西安映画製作所制作の『クレージー・イングリッシュ』というドキュメントで、声高に叫び身振り手振りも大きく、体をつかって英語を教える青年英語教師の熱闘を描いたもの。青年教師は英語をなぜ学ぶか、その理由を単純明快に「金儲け」のためであると割り切り、「お金を儲けるために英会話を短い時間でマスターしよう」と大聴衆の前で強調する。そして、まるで宗教指導者のように大聴衆を「繰り返しのテクニック」で一気に巻き込んでいく。

■彼の方法は、徹底的に恥ずかしい思いをして、これを克服し、口の筋肉を鍛錬して英語式の筋肉に変えていくことだという。彼の方法で学べば4ヶ月ほどで英語がしゃべれるようになるそうだ。大変エネルギッシュな青年で、起業家かつ宣伝マンでもあり、万里の長城で100人以上の人民解放軍の兵士たちに、この学習法を伝授したりする。

■周囲(大衆)をまきこむ技量は相当なものだ。こういうエネルギーに満ちた青年は、今の日本にはあまりいない。「我々はこの英語学習法をマスターし、日本とアメリカとヨーロッパで金儲けをしよう」と単純にして率直なアピール。いろいろと問題をかかえている国だが、沸騰する機運にのって、こういうチャレンジ精神にあふれる青年が出て来るところが、強みである。数のうちには変人、奇人、異能の人も、それなりに多いのだろう。ところで、時代を切り開いていくのは、いつの時代も、変人、奇人、異能の人である。
by katorishu | 2010-02-14 22:55 | 文化一般