アルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』に脱帽
2010年 08月 17日
■デスクトップ・パソコンが起動しなくなり富士通で電話できいても直らず、結局、買った店の山田電気へ修理にもっていった。ちょうど購入してから2年。こんなに簡単に壊れるとは思わず、バックアップをとっていないものもあり、げんなりである。仕事をする気力が著しく奪われる。
■気分転換に日比谷にでてアルゼンチン映画『瞳の奥の秘密』を見た。以前からぜひ見たいと思っていた映画で本年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作。ほかにも数々の賞をえているが、そんな賞はどうでもよく、内容である。日比谷のシネコンでは2館でこの映画をやっておりいずれの回も満席。中高年の女性が多いが男の客もはいっている。25年前に起きた美人女性教師殺人事件を当時裁判所の担当の書記官であった男が定年退職後、自身の生き方をふくめた「過去」を整理するため「小説」としてまとめる。それをもって、事件当時の上司の女性検事のところを訪れ、小説を書いたんだが……と話すところから、映画は核心にはいっていく。
■一見、ミステリー映画のようだが、単なるミステリーではない。人の「過去」の記憶の重さと、これにどう向き合うか、それが生きる意味である……といった普遍のテーマがこめられている。もうひとつの柱は上司のエリート判事補(当時)と年長である主人公の高卒の元書記官の「プラトニック」という形容がふさわしい、微妙な感情の交錯する「愛の物語」である。
■脚本と編集も担当したブエノスアイレス生まれのカンパネラ監督は、原作小説にふれ、この映画を作ろうと思った動機について「ひとつの場面にあるサスペンスや恋愛、悲劇的要素、そしてユーモアといった異なる要素のコンビネーションに興味を引かれた。映画にこのような要素を混在させたらどうなるか、それを見てみたかった」と語る。
■原作者の小説家と共同脚本をかく課程で、重要な役割を果たすエリートの女性上司の部分を大きくふくらませたという。その意図は映画化にあたって十分生かされている。70年代半ばアルゼンチンは軍政のもとにあり、ずいぶん不正が横行し理不尽なこともあった。そんな背景を知らないと、わかりにくい部分があるが、十分堪能できる。アルゼンチンでは空前の大ヒットになったそうだ。
■カンパネラ監督はハリウッドでアメリカのテレビドラマ・シリーズの演出も数多く手がけているそうだが、アメリカ映画とは一線を画した独自の世界、アルゼンチン社会の現実をふまえた、奥行きのある世界を創りだした。5点満点の5としたい。映画愛好者ならずともぜひ見て欲しいおすすめの秀作である。見終わって、落ち込んだ気分がやや修復された。同時に、いろいろとものを創る上でのヒントを得ることもできた。日本映画がこのレベルに達するのはいつのことか……と思ったりした。