コラム


by katorishu
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 人は嫉妬と誤解をする動物である

9月16日(木)
■久しぶりに通勤ラッシュアワーに電車に乗った。毎日こういうすし詰めの電車に乗るのは大変で、通勤時間が2時間近くもあるとすると、それだけでずいぶんと疲労するなと実感した。iPhoneのおかげで、明治、大正、昭和初期の文学作品やエッセーなどを読むことが多い。アプリをダウンロードしてあるので、駅で電車をまっている間や乗車している10分から20分ぐらいの間、気軽に呼び出して読む。

■本日読んだのは菊池寛の「芥川の事ども」というエッセー。自殺した芥川龍之介について私見を語っている。芥川の自殺の原因についてはいろいろ煩悶することをかかえており、どれが直接の原因かわからないが、思い当たることのひとつとして、芥川が編者となって出版した「近代日本文芸読本」という本を菊池寛はあげる。凝り性の芥川が心血をそそいで編集したもので、文人への公平を期すためできるだけ多くの作品を採用した。

■懲りすぎたあまり、売れ行きはよくなく、印税も編集を手伝ったひととわけたので、菊池寛によれば芥川にわたったのはその労に比して10分の1程度であったという。ところが、「芥川はあの本の印税で書斎を建てた」だの「我々貧乏な作家の作品を集めて一人で儲けるとはけしからん」といった妄説がながれた。芥川は大変気にして印税はすべて文芸家協会に寄付したいと申し出たとか。菊池はその必要がない、噂など無視するがよいといったそうだ。が、感受性が鋭い芥川はその後も相当気にやんでいて、三越の10円切手かなにかを採録した作家すべてに配ったらしい。

■そんな芥川の潔癖性にくわえて、身内や親類のこととか悩みごとがかさなり、結局、自殺してしまったのだが、菊池寛は同時代の作家たちの嫉妬、そねみ、誤解などが芥川を死においやった一因としている。人は嫉妬と誤解の動物であると、あらためて思う。誤解や噂が人から人へと伝わるうち誇張され、根も葉もないことが「事実」となってしまう。その類のことがいかに多いことか。ため息がでるほどである。

■表面にこやかにしていても、内心では誤解をし嫉妬の炎をもやしていると思うと、人間がいやになる。具体的には記さないが、最近もそれに類することがつづいた。うんざりするものの、ぼくは芥川ほど繊細でもないし、才もないので、凡人としての生活をだらだらと続け、表面上は穏やかに生きている。映画やドラマなどでは人間てすばらしいといった「人間賛歌」の作品があいかわらず多いが、ぼくには、人間とは「じつに困った存在」としか思えない。
by katorishu | 2010-09-16 21:54 | 文化一般