コラム


by katorishu
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消費低迷がもたらす日本の劣化。このままだと「貧困文化」しか生まれなくなる

  9月8日(金)
■金曜日だが、近所の飲み屋は以前とくらべ客の入りが少なく、他人事ながら心配になる。立ち飲みやこれに準ずるチェーン店の安酒場はそれなりの入りだが、個人経営の店や、やや上等の個性的な料理などをだす店はがらがらのところが多い。都心の大きな繁華街には繰り出す人の数が多いので、比較的高級店にも客がはいっているようだ。しかし、そんな店はごく一部で、あとは青息吐息のようである。

■他のほとんどの業種も似たりよったりではないのか。日本人の貯蓄率は高いし、外国に借金をしていないし、世界的な大不景気のなか日本は充分持ちこたえられる、と楽観視するエコノミストも多いが、本当に大丈夫なのか。ぼくが斜陽企業の典型であるテレビ業界、出版業界に関係していて、その業界の人との付き合いが多いので、そう感じるのかもしれないが。





■異例ともいえる円高のもと、このまま国内消費が低迷すると、製造業を中心に年末ごろから倒産、失業が激増するのではないか。ただ食いつなぐだけ、では文化や芸術どころではない。困ったものである。野田政権はよほど腹をくくって経済対策をこうじないと、関東大震災後の大恐慌と同じような事態になりかねない。

■じっさい町を歩くと、「チープな光景」ばかりが目につき、げんなりする。人のたたずまいが、よろしくないのだ。すっと背筋の伸びた人が減って、こせこせした雰囲気の人が増えた。紳士然とした人など滅多に見ない。昨日、青山で某大手広告会社のI氏と某制作会社で打ち合わせをしたが、I氏はいつ会ってもぴたっと決まったスーツにソフト帽をかぶり皮の鞄をもっている。まさに典型的な英国紳士風だ。スマートで背も高く、そんなスタイルが似合うのだが、考えてみるとI氏のようなスタイルを維持している人が本当に少なくなった。

■いくら貧乏しても煙草なら両切りのピースしか吸わないとか、ウイスキーはスコッチ、着るものは英国屋等々、趣味にこだわり頑固なスタイルを崩さない人が、以前の東京にはそれなりに棲息していた。今はそんな生活スタイルを固守している人は数えるほどで、絶滅品種になりつつある。頑固にひとつのライフ・スタイルを固守することも大事なのである。文化とはライフスタイルでもあり、型を維持することでもあるのだから。

■ぼくなど以前はジーンズをはくこともなく、それなりに衣服やたたずまいに気をつかったりしたのだが、昨今の風潮に染まり、ラフそのもの。ジーンズにリュックを背負って、毎日がハイキングのようにふらふら歩く。それが楽であるからそうするのだが、たまにI氏のような人にあうと、懐かしい人に再会したような気分になる。

■本日、新橋界隈で仕事の打ち合わせをしたあと、チープになった盛り場をよけるようにして、自宅にもどった。仕事部屋で原稿の修正などをしてメールで送信した。さてたまにはテレビでも見るかと思ったが、見たい番組もないし、どうも落ち着かないので、また資料をつめたリュックを背負ってふらふらと外出しコーヒー店で2時間ほど資料読み。それから心身を休める意味もあって、青物横丁の極めつけの安酒場に直行……。マッコリが250円。日本酒の白鶴1合が190円。なんだか闇市にいる気分になる。この雰囲気が嫌いではないが、どこもかしこもこんなふうになると「貧困文化」しか生まれなくなると心配になる。
by katorishu | 2011-09-09 22:41 | 文化一般