コラム


by katorishu
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ラウル・ルイス監督の4時間半におよぶ「ミステリーズ 運命のリスボン」を見た

9月14(金)
■昨日、映画「ミステリーズ 運命のリスボン」の試写をみた。4時間26分という大長編映画で、途中10分の休憩があったものの、見終わるまでかなり根気がいる。監督はチリ生まれでフランスでの評判の高いラウロ・ルイス。2010年フランスで公開され1年間の異例のロングランを続けたそうだ。ラウロ・ルイス監督は世界文学の傑作であるプルーストの「失われた時をもとめて」を映画化している。大長編小説なので、その中の一節の「見出された時」を映画化した。この作は日本でも公開された。カトリーヌ・ドヌーヴがでていたので見なくてはと思ったが、見逃していた。ルイス監督は一部のフランス映画ファンには知られているものの、日本ではあまり馴染みがない。比較的映画好きの僕も、じつはこれまで一度もルイス作品を見たことがなかった。

■4時間以上の作品はしんどいと思って試写の案内がきても行かなかったのだが、最終日にたまたま時間があいたので六本木シネマートに足を運んだ。「運命のリスボン」は「ロマン主義最大の作家」カミロ・カステロ・ブランコの小説をもとに映画化したもので、「ゴシックロマン」の範疇にいれてよいだろう。ルイス監督は完成後間もなく2011年70才で亡くなった。事実上の遺作である。

■19世紀前半の激動するヨーロッパ情勢を背景に、リスボンの修道院に身を置くジョアンという少年の出生の秘密を解き明かす展開で、さらに複雑な人間関係が描かれる。ミステリーという単語がタイトルにあるので「謎解き映画」の変種かと思ったが、ちがう。ポルトガルの貴族社会に生きる人間の苦悩に深く重くせまる作品で、演劇的要素が濃い。いわゆるハリウッド的エンターテイメントとは対極に位置する。お客への「サービス」など顧慮しない作りはかえって新鮮でもあり、さすがフランス映画と思った。人間を深く重く描く「純文学」に近い。

■エンターテイメントを期待して見に行ったらおそらく「退屈」と思う人も多いに違いない。ところどころシュールなカットもあり、「紙芝居」のようなカットが効いている。ハリウッド映画のパターン化されたハッピーエンドの作に食傷気味の人には、お勧めの映画である。10月13日よりシネスイッチ銀座で公開。
by katorishu | 2012-09-14 11:30 | 映画演劇