コラム


by katorishu
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映画『スプリング・ブレーカーズ』は「ハリウッド的文法」をやぶった異色のエンターテインメント映画。

 5月16日(木)
■ハーモニー・コリンという監督の映画を初めて見た。マスコミ試写で見たのだが、六本木のシネマートの試写室は上映25分前にいったのに、ほぼ満員。補助席に座ることに。ハーモニー・コリンは1995年『キッズ』の脚本を、わずか19歳で書いた早熟の天才肌の監督である。案内状がきたときからせひ見ようと思っていた。普通のハリウッド映画とひと味もふた味も違った作りで、ひきこまれた。エンターテインメントでありながら、単なる娯楽を乗り越えた刺激的な作品となっている。

■話は単純で、地方都市の女子大の寮で生活する4人の女子大生が、春休み(スプリング・ブレーカーズ)退屈をまぎらわそうと、フロリダにでも遊びに行こうと思う。しかし、お金がない。彼女たちはアルコールと薬をやっていて、なんとなく面白くない日々を送っている。だったら強盗をやってお金を手にいれたらと一人がいいだすと、4人とも賛成。事の善し悪しなど考えずに覆面をしてレストランに侵入、ピストル(じつは水鉄砲)で客や店を脅し大金をまきあげる。そして一路フロリダを目指す。

■強盗なんかビデオゲームみたいなもんよ、お芝居をやってるつもりでやればいい、という軽いノリで、まるで子供のように直情径行に振る舞う彼女たち。フロリダの海岸では4人ともビキニ姿になり、同じ類の若い男女とエロチックに踊り狂う。アルコールをのみ、大麻やコカインもやり、きわめて「ハイ」になり、まるで「夢のような」時間をすごす。そんな4人の前に一人の怪しげでリッチな男が現れたことから、彼女たちの「夢のような時間」に変化が訪れる。この男、ジェームズ・フランコという1978年生まれの個性的な役者が演じるのだが、じつにいい味をだしている。一時期の奥田瑛二を思わせるところがあり、じっさい何を考えているのかわからない不思議な人物設定だ。





■彼の出現で、映像に妖しさとバイオレンスが加わり、エロチックでナンセンスな事態があいついで起きる。ジェームズ・フランコは「俺は異星人」だといい、麻薬の製造販売で巨額の富を得ていて、豪邸に一人で住んでいる。なぜか彼は4人の女子大生に関心をもち、歓楽地をつれまわす。陽気で、どこかニヒルな男だ。途中で2人が脱落し、最後は男と2人の女子大生で、男の昔の兄貴分で今は仲違いをしている「ボス」を襲撃にいく。男はあえなく射殺され2人が残る。くよくよ、めそめそとは無縁のハイな彼女たち。

■ハーモニー・コリンは、いわゆる「モラル」や「常識」から逸脱した「ハイ」な状況を、映像詩といってもよい見事なカメラワークで構成する。フラッシュバックなどを多用しながらロック音楽のリズムにのせてダイナミックにリズミカルに描く。ハリウッド映画につきものの「ハッピーエンド」はない。4人の女子大生の登場シーンの3分の2は、ビキニ姿だ。時代が行き詰まるとエロとナンセンスが流行るというのが僕の持論だが、それにまさにあてはまる作りで、納得した。

■フランス映画の雰囲気もあるが、やはりアメリカ映画である。実験精神を根底に宿しながら、エンターテインメントとしても十分に楽しめる。ありきたりの映画に飽きたひとに、おすすめの1作。6月15日より、渋谷のシネマライズほかでロードショー開始。
by katorishu | 2013-05-16 09:54 | 映画演劇