コラム


by katorishu
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「きっこの日記」の過激さと影響力 

 8月24日(木)
■「きっこの日記」というブログを御存知だろうか。自称「ヘアメイク」の「女性」の記すブログで、今年初めの時点で一日のアクセス数が10万を突破したという。その後、週刊誌で紹介されたこともあるので、今は20万を超えているのではないか。
 音楽やf1のほか、パチンコ、俳句などについて、独特のしゃべり口調の文体で記すほか、週に1,2回、政治や社会問題についても発言をする。執筆に4,5時間かかるのではないか。毎日欠かさず長文が記されており、取材をするとなると、とても片手間にできる作業ではない。

■基軸は小泉政権や創価学会、ホリエモンなどの「強者」を強く批判することに置いている。例のホリエモン事件では沖縄で「謎の死」をとげた野口氏の妻から「きっこ」氏に直接送られたメールを何度も掲載、さらに耐震設計偽装問題では、検査機関の責任者からのメールを掲載するなどした。警察や検察、国会関係にも「情報源」があるよで、内容からいって「ヘアメイク」の女性が書けるものではない。週間現代などにそのまま載ってもいいようなものも多く、かなりの取材力と分析力をもっている人だと推定できる。

■複数の筆者説もあるが、「きっこ」氏はきっぱりと否定している。このブログに数日前、タヒチ島在住の作家、板東真砂子氏の「猫殺し」に関するエッセーを痛烈に批判する一文が載った。彼女が日本経済新聞に猫を飼う人間として、避妊手術は生まれてすぐの子猫を殺すことと同じであり、自分は飼っている子猫が産んだ子猫を自宅となりの崖下に放り投げて殺している、と記した。これに対して「きっこ」氏は猛烈に怒り、板東真砂子氏を「鬼畜」「人格異常者」として徹底的に糾弾した。そのエッセーに対し読者から共鳴するメールが多数寄せられたようだ。

■「きっこ」氏はブログの頭に日経新聞の電話番号と担当者の名前、それにメールアドレスなどを記した。ただ、さりげなく記しただけで、「抗議しよう」など旧左翼の常套手段を使わないところが、手練れでもある。
 日経には若者から抗議の電話等が殺到するだろうなと思っていたら、本日8月24日の朝日新聞夕刊に『「子猫殺し」に波紋』という見出しの記事が載った。朝日によると日経には24日正午までに504件のメールと88件の電話が寄せられ、いずれも「不快だ」「理解に苦しむ」といった抗議であるという。

■これは予想されたことだが、朝日の記事で気になったのは「きっこの日記」が一行も触れられていないことだ。あれだけの抗議が殺到したのは、「きっこの日記」がとりあげたからであり、それが唯一の理由である。「アクセス数の多い」ブログの影響力もあわせて掲載しないと、真相は浮かんでこないのに、敢えて朝日は避けた。
 記者は「きっこの日記」のことを書いたのに、整理部段階で削ったのではないのか。「きっこの日記」の影響力を記すことで、このブログへのアクセス数が更に増え、とくの若い人に対して大変な影響力をもつことになるので、配慮したのかどうか。

■ブログには板東真砂子氏のエッセーの要旨も掲載されており、確かに過激な部分もある。一方、これを鬼畜として糾弾する「きっこ」氏も、それに数倍して過激であり、名誉毀損を起こされる可能性もある。匿名である利点もあり、一種ゲリラ的な手法で「権威」をもった人を撃つ。
「きっこ」氏の論理もうなずけるところが多いが、このブログが次第に若者等への影響力を強め、「彼女」に糾弾されたら、「作家生命」を失うようなことになったとしたら……「うーん」と思ってしまう。

■ここは「プロの物書き」として板東真砂子氏からの反論を期待したい。日経が「きっこの日記」の大量の読者に「配慮」するあまり、板東真砂子氏の反論を載せなかったりしたら、それこそ大問題である。日経の社長室では「原稿の内容は、筆者の自主性を尊重している」と説明しているとか。
 無名で匿名のブログの筆者が、直木賞受賞という看板を背負った作家を糾弾し、それが朝日新聞で5段にわたって掲載された。このことに、時代の流れを感じざるを得ない。

■本日、脚本アーカイブズで、脚本・台本のデジタル化の問題と可能性について専門業者から話を聞いた。デジタル化にはいろいろの問題があり、専門家もこれが「万能」と思った時期もあったが、逆にデジタル化はアーカイブズに馴染まず危険という流れができた。ところが、最近は、やはりデジタル化は重要で将来的な流れはこちらに……となっているようだ。技術発展にともない、試行錯誤を繰り返しているのが実情である。
 ボランティアで関わっているのだが、時代の新しい波は動きは、こんなところからも感じ取れ、有意義な時間を過ごせた。

■終わってITに詳しい2人の委員と、率直な意見交換。現在、マスメディアのあり方をめぐって激変が起こっているのだが、既存の大マスコミにいる人は案外、変化に鈍感である……等々、興味深い意見が続出した。
 いずれにせよ、メディアは「アナーキー」な方向に動いている。これに対して早晩、強い規制の網をかけないと、とんでもないことになる、という危惧も出ているようだ。
「言論の自由」とのかねあいでむずかしい問題だ。『脳内汚染』の問題ともからんでくることで、この一点をとっただけでも、時代はすでに容易ならざる段階にはいっている。
by katorishu | 2006-08-25 02:19