コラム


by katorishu
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一人語り「友情・ある半チョッパリとの45年」を見た

 4月21日(土)
■下北沢の小劇場「楽園」で、レクラム舎公演、鈴木一功一人語り『友情・ある半チョッパリとの45年』を見た。原作は評論家西部すすむ氏の同名の本で、西部氏が札幌の中学高校時代、唯一心を許せる友人の思いでをつづったもの。劇ではウミノという男になっている。ウミノは日本軍の軍属であった朝鮮人の父親と娼婦であった日本人女性との間にうまれ過酷な人生を歩む。

■最初、「西部」に扮した一功氏が出てきてウミノとの出会いや数々のエピソードが語られる。それはいいのだが、元学生運動の指導者で後に東大教授となり、「右翼評論家」といわれる西部氏を一功氏が演ずることには無理があり、このまま最後まで続くと、かなり辛いなと思っていた。ところが、1時間が過ぎ、「衣装替え」してヤクザになったウミノとして登場すると、がらっと趣がかわり、一功氏が輝きだす。ウミノが自分を戯画的に語る部分は出色の出来で、大変面白く、泣かせる芝居になった。

■ウミノの苦難の子供時代は悲惨そのもので、行商する母親につきしたがい、住む家もなく、あるときは屋根裏に寝て、あるときは駅の待合室で寝たりの生活を続ける。韜晦して語るのだが、哀れを誘う。栄養不足から結核になり死んでいく母親を、子供ながら必死で看病する姿や、母の死後、11才で炭鉱町の風呂屋にもらわれ、下男同様のあつかいでこきつかれ、逃げ出して町をさまよう。そんな過酷な少年の生活には驚くばかりだ。

■ウミノは頭脳が優秀であったのだろう、そんな過酷な環境にありながら北海道で最難関の高校に合格する。しかし、生い立ちのハンディは精神面でウミノを追いつめ、結局、ヤクザ組織にはいり、麻薬漬けとなるなどして転落の道を歩んでいく。
 そんなウミノを、西部は暖かく見つめる。義侠や男気というものが死語となっている「欲得万能」の現代に対する、一種の抗議の書とも言える。人の「覚悟」というものを根底に据えており、感動的な舞台に仕上がった。

■演出は30代の若い女性で、時代考証などの間違いも散見されたが、ぼくには興味深い舞台だった。西部氏の韜晦趣味の論にはついていけないところがあるが、一功氏によせた一文の中で『演技の問題にパッションを、つまり「受苦への情熱」を傾けてこられた鈴木一功氏が小生の友情への覚悟めいたものに関心を示してくれたことに深く感謝する』と記しており、ウミノという人物との出会いが、西部のその後の軌跡に強い影響を与えていることが、理解できた。

■終わって一功氏をふくめ、知り合いの役者、ラジオドラマ関係者等と軽く飲んだ。そのあと、別の集まりがあったので、途中で失礼して、こちらも役者や舞台関係者などの集まりに。新井晴美さんから、「香取さん、ブログに酔った弾みで私のために一人芝居を書くと引き受けたなんて書いたでしょう」といわれてしまった。このブログも読まれているかもしれませんが、改めて陳謝。いずれ「約束」を果たすつもりですが、とにかく時間が足らず、いろいろな方に約束を果たせず迷惑をおかけしています。
by katorishu | 2007-04-22 03:02 | 映画演劇