コラム


by katorishu
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アルモドバル監督の『ボルベール・帰郷』を見た

  7月24日(火)
■久しぶりに渋谷の映画館でスペイン映画『ボルベール《帰郷》』を見た。名作『オール・アバウト・マイ・マザー』を撮ったアルモドバル監督作品で、ペネロペ・クルス主演。15歳の娘と失業中の夫と暮らすライムンダ(ぺネロペ・クルス)に、事件がふりかかる。娘が、失業中の欲求不満から娘をレイプしようとした父親を刺殺してしまった。事態を知ったライムンダは「わたしが殺したことにする」と決意して死体を氷詰めにする。

■この事件により、娘の父が「実父」ではない事実が明らかにされる。さらにライムンダが慕っていた叔母の死。そして、亡くなっていると思われていたライムンダの母が生きていた。実の娘の父親について更に衝撃的な事実が明かされるなど、アルモドバル監督らしく、家族のどろどろした関係が展開される。スペインの明るい陽光とスペイン人のもつラテン気質の故か、妙な明るさに満ちており、重苦しい印象とは無縁である。

■30半ばと思われるペネロペ・クルスの演技のうまさに改めて感嘆する。劇中で彼女自身が歌う哀愁をおびた歌もいいし、いくつもの表情をもっており、強く印象に残る。
 次第に明かされる「事実」は衝撃的だが、登場人物たちはたじろがず、スペイン人らしく、極めてたくましく生きていく。そこに救いがある。ハリウッド作品のパターンとはかなり違った展開であり、映像も新鮮。現実の人生と同じく作品もハッピーエンドでは終わらないが、それがかえって深い余韻を残す。

■渋谷駅近く、ハチ公の真向かいのビルの7階にある「シネフロント」で見たのだが、いい映画なのにお客はたった10数人。同じ建物にあるレンタルビデオのツタヤは混み合っていた。渋谷センター街付近は相変わらずの喧噪で、若者を中心に大変なにぎわいであった。道玄坂の途中にある映画館では『西遊記』をやっており、恐らくこちらにはもっと多くのお客が入っているのだろう。テレビの西遊記の焼き直しの映画など観ても時間の無駄という気がするのだが――。やはり宣伝の力なのか。映画を見るなら、『ボルベール』程度の作品をぜひ見て欲しいと思いながら、「ないものねだり」とあきらめつつ渋谷の雑踏を抜けて駅に向かった。

■もっとも、今回のアルモドバル監督の作品、佳作ではあるものの、『オール・アバウト・マイ・マザー』ほどの強い感銘は受けなかった。この監督、一貫して「家族」をテーマにしている。『トーク・ツー・ハー』も同じ監督だった。
 スペイン映画やイタリア映画、アルゼンチン映画などラテン系の映画には深い味わいのものが多い。人生についてちょっと違った見方を提示してくれるし、いろいろと考えさせされるものを豊かに持っている。
『ALWAYS三丁目の夕陽』の続編の予告を見せられた。柳の下の二匹目のドジョウを狙うつもりなのだろう。申し訳ないが、二番煎の映画を見るほど暇ではない。 
by katorishu | 2007-07-25 01:45 | 映画演劇