コラム


by katorishu
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

HNK報道記者によるインサイダー取引

 
 1月17日(木)
■NHK報道局記者ら3人によるインサイダー取引疑惑にからんで橋本会長等が記者会見で陳謝した。16日、放送センターなどに証券取引等監視委員会の調査が入ったという。報道機関として恥ずかしいことだ。

■職員の倫理規定である「放送ガイドライン」には、「取材で得た情報を、個人の利益のために利用することは許されない」とあるだけだという。インサイダー情報入手に使われた報道端末にアクセスできるのは約5000人。今回の問題にかかわった3人は地方放送局などに勤務していたが、どうやら他の職員の中にも手をそめていた者がいる可能性がある。(毎日新聞ウエブ版)

■昔、短い期間だが身を置いていたところでもあり、気になる。30年以上も前のこと、まだ「インサイダー取引」などという言葉も一般化していなかったころ、某記者が取材で得た「情報」をもとに、ある行為をして1億円ほど儲けたという「疑惑」が某週刊誌に載ったことがある。
 某記者を知る周囲では、「彼ならやるだろう」といった言葉が話されていた。

■当時は良くも悪くも「おおらか」で「寛容で」、植木等の「サラリーマン無責任時代」が流行ったような、ある種「無責任」の時代であったから、それ以上、追求されることもなかった。取材の現場をはずされたあとも、彼は仕事の合間に株や不動産取引をこそこそやっていた。「ぼくは大富豪にはなれないけど、小富豪になる」という言葉を彼から直接聞いたことがある。「家が貧乏だったから、学生時代もアルバイトをしてお金をためてアパートを買った。そこから入る家賃を元手に資産をふやしてきた」とも話した。

■「変わった人間がいるものだ」と、学生時代「遊ぶこと」に情熱を傾けてきたぼくなど、驚いた。とにかく「金儲け」しか頭にない人で、よくこういう「偏り」のある人が報道機関にはいってきたなと思ったことだった。いわゆる「問題児」で、上司ももてあましていた。ただ、学生時代から、ひたすら資産を増やすことばかりを考えてきたので、「情報」には敏感であり、局内の「誰がどうしたこうした」といったことには妙に詳しく、恐らくぼくは「安全な」人間と見られていたのか、いろいろな情報を流してくれた。

■ぼくの中に「株嫌い」「金融嫌い」の気分が生まれたのは、恐らく某元記者のふるまいを間近に見ていたことと無関係ではない。(だから相変わらず「貧乏暇なし」生活を続けているのだが)。バブル経済の前後から「金儲け」は「良いこと」、だから金儲けのためには「法律すれすれ」のことをやってもいい。金を儲けた者が「勝者」「成功者」といった空気が日本をおおい、今もその空気の中にいる。金イコール「数字」であり、数字をあげた者が礼賛される。「武士は食わねど高楊枝」という「士」を根底に宿している人が、ほんとうに少なくなった。

■少なくとも2,30年前には各界の指導層の中に「士」の気持ちをもった人が少なからずいたのだが。
 今はパソコンで原稿を作成するので、組織内の関係者なら、直接の取材者やデスク以外に「原稿端末システム」で放送前の原稿を読むことが出来るようだ。これは民放も同じだし、恐らく新聞でも似たようなものだろう。パソコンで簡単に株の取引もできるし、「ちょっとした小遣い稼ぎ」をやっている「記者」等は他にも少なからずいそうである。本人が直接、取引をしなくとも、家族や友人に携帯電話等で情報をながし、彼らが取引をすればほとんど発覚することはない。

■この件でまた「受信料不払い」が増えるかもしれない。「市場原理主義」が世界中をおおうなか、NHKの存在価値が今後出てくるに違いない。BBCのような、時の政権とも一定の距離をもち、「商業放送」とは別の視点で番組をつくる組織はあったほうがいいし、それが「文化の多様さ」につながると思うのだが。「士」や「廉潔」「潔癖」という言葉も、どうやら「死語」になりつつあるようだ。寂しいことである。まだ「生存している」はずのNHK内の「士」の心を持つ人に、頑張って欲しいものだ。
by katorishu | 2008-01-18 02:14