コラム


by katorishu
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リアルで怖い映画、「ブラックサイト」を見た

 5月5日(月)
■昨日、映画「ブラックサイト」を見た。ウエブサイトに被害者をさらし、そのサイトにアクセスする数が多くなると、被害者が死ぬ――といった仕掛けをつくった犯人を、ダイアン・レイン扮するFBIの女性捜査官が、我が娘を守りつつ体をはって捜査する。が、当人が犯人の魔手にかかり、ウエブサイトに「死ぬ寸前」の姿をさらす。危機一髪のところ彼女は鍛えた肉体で窮状を脱し、犯人逮捕になる物語である。

■「右翼」の街宣活動等を恐れて映画「靖国」の上映をとりやめた銀座の「シネ・パトス」で見た。銀座にあっても、決してこぎれいなところではなく、半地下にある映画館の前には昭和30年代を思わせる映画のセットのような飲み屋が並んでいる。申し訳ないが、尿の臭いがただよってくるような映画館である。が、時折、いい映画を上映する。

■画面も小さく、有楽町界隈にある大型の映画館とはちがうが、なんとなく「さびれ」「うらぶれた」雰囲気がよく、この映画館で見ることが多い。
「ブラックサイト」だが、冒頭からパソコン画面や画面操作し、キーを早打ちするシーンが頻出し、パソコンをやらない人にはなんのことかさっぱりわからないだろう。テンポが速く、会話や映像の動きについていくのに苦労するほどだ。

■見ているうち、イラクで武装ゲリラに捕まり首をはねられた「外国人」を連想させられる。ウエブ上に「死んでいく姿」がリアルタイムで映し出されるのである。イラクの場合と違って映画では、「生中継」であり、しかも、「怖いもの見たさ」で多くの人がアクセスすると、被害者が死に至る。例えば被害者のつながった劇薬の点滴がアクセス数に応じて増量され、被害者は苦しみつつ死ぬのである。それを多数の人が、恐ろしがり同情しつつも、「興味本位」で見る。見ると、ウエブ上の被害者が死に至る。

■ウエブ上にアクセスすること自体が犯人に加担していることになるという構図。これは怖い。
相当恐ろしい光景だが、IT技術の急速な進歩で、現実に起こりうる犯罪だなと思った。こうした「仕掛け」「状況設定」をつくった脚本がまずあって、制作側に売り込んだようだ。一読した制作者は面白いと判断、映画化にのりだしたとのこと。

■愛らしい名子役出身のダイアン・レインが、「すっぴん」に近い顔で、憔悴したヒロイン役を、体を張って演じている。役になりきる役者魂は大変なもので、「汚れ役」のときでも、とくにかく「きれい」に見せようとする、どこぞの国の「美人女優」などとは心意気が違う。

■ダイアン・レインの主演作品は「トスカーナの休日」を見て以来だが、ラブロマンスの主人公役を演じたあの映画のときとまるで別人のように、サイバー犯罪に向かう子持ちの捜査官の苦悩を演じている。演技ではなく、本当に憔悴するほど体を「痛めつけ」たようで、厳しい訓練を自分に課した。いわゆる「かけもち」では決して出来ない。

■見終わったときの後味は良いものではなく、殺伐した気分が残るが、現実がフィクションを追い越そうとしている激変期である、こういうい映画も必要なのだろう。 この映画を見て興奮し、刺激された「オタク」ないし社会に「怨念」を抱いた人が真似をしはじめないか、やや心配になったが。 

■東銀座では伝統の祭りが行われており、小さな御輿が通りに出ていた。が、コンクリートとビル街にかこまれた道路では、どうも昔ながらの御輿が映えない。過日、行った谷中であったら、御輿も映えるし、形になるのに。木造の建物をなくしてはいけない、と改めて思ったことだった。
機能一点張りでは、人も風景も「生きない」。
by katorishu | 2008-05-05 13:35 | 映画演劇