2010年 07月 26日 ( 1 )

 7月26日(月)
■昨日、渋谷のシアター・イメージ・フォーラムでドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』を見た。アカデミー賞のドキュメンタリー部門の受賞作で、和歌山県太地町で密かに行われているイルカ漁を、盗撮という手法で切り取った異色のドキュメンタリー。太地町の漁業関係者等の反対で、上映を予定していた映画館がぞくぞく上映をとりやめたりした「話題の映画」だ。

■コーヴとは入り江を意味する。ここ数十年、イルカショーが世界的に盛んだが、そのもとになった60年代の人気ドラマ『フリッパー』の調教師リック・オリバーが、イルカが巨大なビジネスになってしまったことで、イルカをどんなに苦しめているか、自身の行為への反省から、イルカ保護を訴える運動をするようになった。彼に共鳴した撮影隊が老いたオリバーとともに太地町にのりこみ、立ち入り禁止区域の入り江で9月から「密かに」行われるイルカ漁の実態に迫る。ユーモアと皮肉をまじえながら、一方でサスペンスタッチの手法をまじえた巧みな「編集」で、とにかく一気に見せる。力のこもったドキュメンタリーだ。

■撮影についての周到な準備から、夜間の撮影敢行に至るまでの「プロセス」を描きつつ、イルカ漁の実態をあぶりだす。これは「伝統文化なんだ」と強調する地元のイルカ漁関係者や政府関係者と、保護団体との緊迫したやりとりも興味深い。作中、イルカが食物連鎖の関係から、水銀に汚染されている「情報」が示される。またイルカの肉が「鯨肉」として販売されているのでは……という疑惑を提示する。イルカはほ乳類であり、大変な知能をもっているとされる。ところで、彼等制作者は牛や豚を殺して常食している。こっちはどうなんだという疑念を、日本人はもつかもしれない。

■見ていていろいろな思いを抱いたが、人(生き物)は他の命を犠牲にして生きる動物であるという思いを新たにした。イルカショーにだされるイルカは1頭15万ドルで取引され、巨大なビジネスになっていることなども、この映画で初めて知った。イルカ漁が「伝統文化」であるなら、なぜ太地のイルカ漁関係者がそれほど隠す必要があるのか。イルカ殺害のあと入り江が異様な赤紫色にそまる光景を目にすると、粛然とし、戦慄さえ覚える。断末魔の声をあげるイルカの泣き声もきわめて効果的に挿入される。巧みな構成だ。

■問題のある制作手法かもしれないが、こういう映画を封印してはいけない。「伝統文化」というのなら、正々堂々と、その必要性を訴えていかなければ、世界から理解を得られないだろう。この映画、アカデミー賞のドキュメンタリー部門で受賞したこともあって、世界中ですでに多くの人にみられている。情報を封じ込めることは言論の不自由につながり、長い目でみて国民のためにならない。8月1まで渋谷のシアター・イメージ・フォーラムで上映中。ぜひ見て欲しい異色のドキュメンタリーだ。
by katorishu | 2010-07-26 08:14 | 映画演劇