オバマ新大統領就任。期待したいが、アメリカの蘇生は難しいとの見方も
2009年 01月 21日
■日本時間、21日の未明に行われたオバマ新大統領の就任式を見た。CNNのライブで見たのだが、アメリカ国民の彼に駆ける期待は大きいと、あらためて思う。ヨーヨーマのチェロ演奏などがあって、ワシントン時間、12時ちょっ過ぎにオバマ氏は宣誓をした。いい顔をしている。知性と活力に満ちている。
■これほどアメリカ国民が祈る思いで注視した人物も珍しいのではないか。ブッシュ政権でダメにしたアメリカを、オバマなら再生してくれるものと期待しているのである。祈りをこめて見守る国民の気持ちは、わかる。原稿などを読むのではなく、自分の言葉で国民に語りかけるスピーチで、格調の高いものだった。この国に信頼が失われており、課題が多い。しかし、アメリカはこれらの困難な課題に立ち向かうことができる……等々。
■すべてが平等で、すべてが自由であり、すべてにその機会が与えられている。アメリカの偉大さは、他から与えられるものではなく、勝ち取るものである……。経済の現状は行動をうながしている。政府が大きいか小さいかであるかは重要でなく、機能するかどうかが重要であり、これまでのやり方を変えていく。われわれは慎重に力をつかったときにこそ、力を発揮することができる。世界は変わった、われわれも変わらなくてはいけない。
■希望と美徳をもって、厳しい試練を乗り越えよう……と力強く訴えた。感動的なスピーチであったと思う。ただ、国際問題研究家の田中宇氏によれば、オバマ大統領への期待とは別に、アメリカの再生はかなり難しいとのことだ。金融の劣化は底なしがつづき、投資銀行の破綻の波が大手商業銀行にもおよんでいるらしい。アメリカと特別な関係をもつイギリスも大変深刻な事態で、金融機関は膨大な公的資金を注入するあまり、財政破綻の危機に瀕しているという。
■ひところ経済破綻の典型的な国としてアルゼンチンが引き合いにだされ「日本がアルゼンチンになる日」といったタイトルの本もだされたが、世界のほとんどの国が「アルゼンチンになる」可能性もでてきた。ノーベル賞クラスの「叡智」をあつめて、「数値化」できないものをも敢えて数値化して「新しい科学的システム」を構築し、これこそ世界の理想の制度であると喧伝した。
■グローバリゼーションという面妖なシステムだが、それが見事失敗した。なによりそこには「人の情」といったものがなかった。この世には数値化できない価値、数値化すると真実から遠くなってしまうものが沢山ある。それを無視して、「科学的に理想のシステム」ができると思い込んだ。これは共産主義こそ人類の理想と喧伝していた人たちの言い分と、相当部分重なる。
■「産業革命」によってアングロサクソンが築き上げてきた「近代文明」の弔鐘が、今鳴っているのである。
本日、脚本アーカイブズについて、朝日新聞文化部記者の取材をうけた。2月10日ごろの朝刊に載る予定。取材されるついでに、こちらから新聞界の現況について「逆取材」をしてしまう。この類のことは公にできないが。
■多少ともマスメディアの裏側を知っている人間には公にできないことが多い。仕事をしていく上での「仁義」もある。仕事は科学や数値で割りきれるものではなく、切れば血のでる人と人との関係で成り立っていることが多い。「日本的経営」の基盤はまさにそういうものだった。「家族主義」であり、経済学などの科学では、説明できない。
■アジアという視点も、今後大事になってくるだろう。未だ英米が軍を送り、軍事的増強を考えているアフガンもアジアである。英米の財政悪化から、アフガンへの軍の駐留は困難、という見方もでている。オバマ新大統領が、ブッシュ政権の描いた「テロとの戦争」などという「物語」から離別して、アフガンからの撤兵を打ち出せたら、あるいはアメリカの再生はあるかもしれない。
■一方で、大恐慌に匹敵する経済停滞、消費の停滞から脱出するには、膨大な消費事業である「戦争」を起こすしかないと考えている人もいる。たしかに戦争に勝る大消費はないのだが……。依然としてアメリカが軍事大国であることに変わりはなく、ロシアも膨大な核兵器を備えている。
戦争だけは回避願いたいものだ。先行き明るいことが少ないが、ここは束の間であってもオバマ氏に期待をかけたい。そこにしか希望が見いだせないというのも、現代世界の悲しい現実である。