インド映画「スラムドッグ$ミリオネア」は、現代のオトギバナシとして秀逸
2009年 05月 01日
■電話の多い日だった。ボランティア活動や私用、仕事もふくめ10数人から複数回、全部で数十回携帯に電話をもらった。そのほか一般電話にも。こちらからも10人ほどに電話をしたりしたが、数日前に電話したことを忘れて、ある用件をいうと、それは過日聞きましたよとの返事。汗顔の至りである。
■脳が処理できる情報は限られているので、多方面にわたる情報を処理しきれないのだろう。考えてみると、現在かかわっている「作業」は6つぐらいあり、そのほか資料読み等々、脳をフル回転させる必要があるので、すでに限界に達しているようだ。頭痛もした。
■こういうときはエンターテインメント映画を見るに限る。カミサンと日比谷まで出向き、シャンテシネでアカデミー賞受賞作「スラムドッグ$ミリオネア」を見た。スラムで学校にも満足にいけずに育ったイスラム教徒の少年が、テレビのクイズ番組二出演し、大変な夢を手にする物語だ。三層に組み立てられた巧緻な構造をもった映画で、おおいに楽しめた。現代のオトギバナシとってもいいだろう。
■監督はダニー・ボイルでイギリス人だが、ベースはインド映画である。さすが映画大国インドでの制作だけあって、最後まで一気にリズムを刻んでもっていく力のある作だった。ダニー・ボイル監督は作品の意図についてこう語る。『僕は、以前よりずっと「普通じゃない人生」というものに惹かれている。(中略)ドラッグや殺人、世界の終わり、そして宇宙なんかについて。この物語は、世界でも最も過激な街インド・ムンバイで、起こりうる《極端》に過酷な経験と、《極端》にロマンティックな愛を物語っている。とにかく究極のドラマを描きたかった。何も持たないスラム育ちの少年が、夢のような少女を手に入れて、夢のような賞金を手に入れることができるのかって?ね』(パンフより)
■インド映画を特徴づける独特の味わいの音楽もいいし、きれのいいカット、そして巧緻に組み立てられたシナリオ。作りすぎという点があるにしても、アカデミー賞を受賞したものうなずける。リズミカルに心地よく運ばれるエンターテインメント作品なので深みには欠けるが、インドの現実を点描しているし、社会派エンターテインメントの側面をもっている。主人公によりそって異空間にしばし遊ぶことができた。ところで、エンターテインメント作品の要諦は、人生は苦しいことも多いが、とにかく生きていれば必ず良いことに巡り会う、という楽観の哲学が底に流れていることである。
■残念ながら、ほとんどの日本映画はこういう良質のエンターテインメントのレベルに、達していない。この作は、全編を乾いた叙情といったものがおおっていて、それがユーモアをかもすのだが、日本映画だとどうしても湿った感傷になってしまう。日本映画のコメディタッチの作品はわざとらしさが目につき、見終わってスカッとしない。民族性なのかどうか、そんな弱点を克服して「スラムドッグ$ミリオネア」に匹敵するような映画をつくっていかないと、日本映画が海外で存在を誇示することはむずかしい……と思ったことだった。