今のテレビ
2009年 06月 02日
■渋谷で放送作家協会50周年記念本の編集会議のあと、六本木の事務所により藤本義一さんほかに原稿の催促。この本の編集作業にかかわってわかったことだが、最近の売れっ子の若い脚本家の多くは「事務所」があり、マネージャーなどがいるケースが多い。芸能プロダクション所属の人も多く、「旧来」の放送作家協会やシナリオ作家協会所属の脚本家がすくない。
■放送作家協会と構成メンバーの重なる脚本家連盟にはいると脚本料の「最低基準」があって、これ以下の脚本料で頼んではいけない「協約」をテレビ局などと結んでいる。脚本料のダンピングを防止する意味があるのだが、何年か前から若い脚本家のなかに「放送作家協会や脚本家連盟にはいると仕事がこなくなるからはいらないほうがいい」といった噂が流れているようだ。
■製作費の低下で制作会社等はできるだけ低予算で番組等をつくりたい。そのため、脚本料も削りたいので、最低料金などのない人に頼むことが多くなっているという。こういう傾向は、いわゆる「派遣労働者」などの問題とつながっている。放送作家協会などにはいらない脚本家がドラマなどを書くようになった時期とドラマの質の低下した時期は、因果関係があるのかどうかわからないが、重なることは否定できない。脚本家の名前がテレビ欄から消えたのも、この時期である。
■仕事を欲しいあまり、半分の料金でもやります、といった若い人も増えていると聞く。以前、早坂暁さんが「最近、まるで飯をつくるみたいに脚本を書く主婦作家が増えているんだよな」と話していたのを覚えている。「主婦作家」はたいてい「旦那」がいて旦那には稼ぎがある。そのため「安いギャラ」でもかまわない。従って緊張感のない脚本になる、といった批判であったと記憶する。そのころから女性脚本家が急増し、いまでは女性の割合が多くなっている。
■韓国でも同様で、現在50代後半以上の脚本家は圧倒的に男性が多いが、20代、30代の脚本家は女性が9割近いのではないか。女性が増えること事態を、ぼくは歓迎しているのだが、「女性ばかり」になると問題である。それも「若い女性ばかり」というのは大いに問題である。
やはり文化は創り手にしても、老若男女が混在してつくりあげるべきで、当然そのほうが豊饒なものが生まれる。週刊朝日を買ったら、今年春の連ドラについての記事があり、大半を酷評していた。「社会性がない」ことと「人間が描けていない」という2点が、ぼくの知る放送評論家、テレビウオッチャーらの率直な感想である。現場で企画の採否をきめるプロデューサーの質の問題かと思う。それと「数字万能主義」。その数字もビデオリサーチという1社の調査だけで、どの程度信じられるのか、わかりはしない。
■ふと思い出して、某テレビ局でそれなりの地位をえている旧知の某氏に電話し、小一時間お茶でも飲む時間がある?ときくと、ぜひということなので某テレビ局を久し振りに訪れた。玄関をはいってすぐのところに喫茶室があったのだが、最近閉鎖してしまったという。経費節減のためウエイトレスなどのいる喫茶室をなくし、自動販売機をおいて代用しているのだという。
■で、社員食堂の脇にあるコーナーでジュースをのみながら意見交換。テレビ各局は生き残りのため「放送外収入」をどう確保するかに心をくだいているようだ。雑談しているうち某氏から「(個人的に)長くあたためている素材」について提案があり「これはやはり香取さんの分野じゃないかと思って、前から考えていた」とのこと。話をきくと、戦前、戦中、戦後の「昭和」をメインテーマにしているぼくの関心とそのまま重なる。なんとか実現にむけて努力をしようということで別れた。
■ぼくの場合、仕事も行き当たりばったりですることが多い。たまたま飲み屋で隣にすわっていた編集者と意見交換したあげく、本を1冊かくことになったり。以前、地方のあるテレビ局になにかほかの用事で顔をだしたとき、たまたまドラマのプロデューサーにあった。プロデューサー氏いわく「ああ、丁度よかった。香取さん、いま企画している連ドラ書いてくれないかなア。時間ある?」「なくもないですけどね。なにか素材は?」「いや、とくにないんだけど、来週東京にいくんで、一緒に考えましょう」といったやりとりから、65回の連ドラを書くことになったり――。
■思えば「良き」「古き」時代であったというべきだろう。そんなプロデューサーも、いまのテレビ局にはいない。学歴秀才や優等生はテレビ局などに入らない時代に、「はぐれ者」としてテレビ局にはいって人達が主流の時代だった。とくに制作現場では。
■銀座にでて映画でも見ようかと思ったが、急に腹痛を覚えたので、真っ直ぐ帰宅し胃薬を飲んで仮眠した。明日からソウル。アジア・ドラマ作家カンファランスに出席のため。ぼくはただ「にぎやかし」の一人としていくだけだ。上海と北京の脚本家らとつとめて意見交換しようと思っている。日本からは「篤姫」の田渕久美子氏らが参加する。アジア各国のドラマを上映しそれについてパネリストが議論。ぼくは見物客のひとり。携帯パソコンをもっていくので、ひきつづき当ブログで会議やパーティなどの模様を「さしつかえ」のない範囲でお伝えしたい。