駒沢大学駅の強い風
2004年 11月 30日
2日に1度くらいの割合で地下鉄に乗るが、最寄り駅の田園都市線、駒沢大学駅ほど風の強い駅はない。田園都市線は何駅か先の二子玉川駅あたりから地下にもぐるので、電車がトコロテンを押し出す器具のように風を地下鉄路線内に押し込んでくるのだろう。
しかし、地上から地下にもぐる路線は東京にいくつもあり、そんな路線の駅に乗り降りしたが、駒沢大学駅ほど強烈な風が吹くところはなかった。
数年前、引っ越してきて初めて駅のプラットホームにたったとき、「これはなんだ」と驚いた。
これまで乗客はよく我慢してきたものだ。冬など冷たい強風がふき、帽子をとばされる人や髪をおさえる人なども多く、息をするのが苦しくなるほどだ。駅の構造上の問題ではないか……と漠然と思ってきた。
本日、駅の入り口や改札口、プラットホームなどで風圧計などを使って風の調査をしていた。調査をしている青服の人に「風の調査ですか」と聞いたところ、
「そう。ひどいね、この駅の風は。電車が来る方向からばかりじゃなくて、反対方向からも、ものすごく吹いてくる」とあきれ顔だった。
田園都市線を経営しているのは東急電鉄である。
ぼくの知り合いの役者で駒沢の隣りの桜新町に住む役者が、
「田園都市線は腹立たしいほどこむ。やっぱりゴウトウケイタの経営だからね。とにかく御客をつめこめるだけつめこんで、儲けようとする」と話していた。
ゴウトウケイタとは東急電鉄の創設者の五島慶太氏で、強引で豪腕な経営ぶりから、つとに、そういわれてきた。
今年の春、田園都市線はダイヤ改正で少々便数をふやしたものの、夜など渋谷から乗るとき、これ以上乗れないほどぎゅーぎゅーづめにおしこめられ、乗り切れない人もでる。
テレビの「金妻」などの舞台になった町が沿線にあるため人気がで、多くの人間が住み着いたのだが、私鉄としての歴史はまだ30年ほどと、新しい。
通勤ラッシュにはほとんど乗ったことはないが、毎朝ぎゅーぎゅーづめの電車で会社や学校に通う人はご苦労さまである。
駒沢は都内では「高級住宅地」といわれているそうで、以前、駒沢に引っ越したと話すと、何人もの人から「いいところに引っ越しましたね」といわれた。
ほんとに、いいところかいな……というのが、ぼくの実感である。もっとも三軒長屋の一角に住んでいる「貧乏作家」なので、高級官僚等の住んでいる庭付きの「高級住宅」に住むのとは、実感がおのずと違うのかもしれないが。
都内ではかなり広い駒沢公園を除くと、お世辞にも魅力のある町とはいえない。
駅前の四つ角にたって見回すと、洋服の「青山」、眼鏡の安売りの「メガネスーパー」、チェーン店の酒場の「和民」と「白木屋」、「マクドナルド」、立ち食い蕎麦の「フジ蕎麦」、牛丼の「吉野屋」「松屋」、カラオケ店、それにコンビニ……といった、この10数年で隆盛になったチェーン店ばかりだ。それに小さな不動産屋がやたらと多い。以前、試みに信号から信号までの200メートルほどを歩いて、不動産屋の数を数えたら道の片側だけで6店ほどあった。
渋谷駅に6,7分ほどでいけるのはいいが、これが「高級住宅地」というのだろうか。
「世界で第二の経済大国」といっても、首都の住環境はこんなものである。外国人特派員協会の会長であるウォルフレン氏が『人間を幸福にしない日本というシステム』など一連の著書で繰り返し強調しているが、日本人は知的能力も高いし、概して勤勉である。だが、それに見合った「幸福な生活」をお世辞にも送っているとはいえない。
数字の上では「経済大国」なのだが、多くの国民は決してそれに見合った生活を送っていないと、外国と具体例をあげて比較し、説得力のある論を展開していた。
ぼくはウォルフレン氏の意見に全面的に賛成し、納得した。
私鉄やホテルを傘下に置くコク…なんとかという会社を牛耳っている人物など一握りの層に都合のよいシステムが、いまだに国の隅々までおおっているである。
隣りの三軒茶屋には、まだ町のたたずまいがあり、商店も比較的多彩で、映画館や劇場などもある。そこまで散歩の距離が適当なので住んでいるが……。
住民には申し訳ないが、あまり好きになれない町だ。そろそろ引っ越したい気分になっている。
もっとも、今の都内、どこにいっても大同小異で、金太郎飴のような店が並び、目に光りのない人間が惚けた顔で歩いている。
「お前もその一人だ」といわれたら、「ちがう」と強く反論できる自信はないのだが……・。