コラム


by katorishu
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『寺田寅彦・バイオリンを弾く物理学者』(末延芳晴著)は労作で読み応えがある

 2月10日(水)
■学生時代からの友人の文芸評論家、末延芳晴氏が大著『寺田寅彦・バイオリンを弾く物理学者』(平凡社刊)を出した。新聞各紙で書評にとりあげられ、NHKのブックレビューやTBSのBSでもとりあげられているので、お目にとまった人がいるかもしれない。このほど読了したが末延氏の心境を示す著書で、多くの人にぜひ読んでいただきたい本である。

『寺田寅彦・バイオリンを弾く物理学者』(末延芳晴著)は労作で読み応えがある_b0028235_0254826.jpg■写真の帯にあるように、寺田寅彦という物理学者、文学者を音楽(バイオリン)の角度からとりあげているのが、ユニークであり、なるほどと思わせる文章に満ちている。末延氏はニューヨークに25年近く住み、当地で音楽評論などをやっていた。ぼくがフリーになった直後、彼は日本に一時帰国した。そのとき、日本にもどって文筆業に専念したいのだけどどうだろうと相談を受けた。末延氏の書くものは率直にいってあまり売れそうにないし、アメリカに生活の基盤があるのなら、敢えて帰国しないでもいいのでは、といった記憶がある。

■結局、彼は日本に帰らなかった。その後、子供の教育の問題もあり何年か前に帰国した。外国滞在の体験が生きたようで、彼としても格好のテーマを見付け、日本と外国の狭間で生きた人間の評伝に独自の道を開く著書を相次いで上梓した。夏目漱石、それに森鴎外について大部の本を書いた。現在は高知新聞に正岡子規について評伝を連載している。京都に住み独自の文筆活動を行っている彼にエールを送りたい。

■大学に入学した年の夏、彼も含めて1週間ほど京都旅行をしたことを思い出す。まだ新幹線が開通していなくて、特急ツバメでいったのではなかったか。帰りはカネがないので鈍行にしようということになった。鈍行だと15時間もかかり、列車の床に寝たりしながら、へとへとになって帰京した。そんな思い出も懐かしい。『寺田寅彦』の本は2700円と、少々高いかもしれないが、買って読んで決して損のない内容である。こういう硬派の本をだす平凡社にも敬意を表したい。
by katorishu | 2010-02-11 00:30 | 新聞・出版