コラム


by katorishu
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サンドラ・ブロック主演映画『しあわせの隠れ場所』は良き古きアメリカ人の典型を描いた佳作 

 3月11日(木)
■個人的な意見を自由に開陳できる座談だといいのだが、公的な場での「真面目な」意見発表はどうも苦手である。本日、苦手な役割を霞ヶ関の某所で演じた。できればこういう役割は人にゆずって、文筆に専念したいなと心から思う。最近時間を使ってやっていることは、「創作空間」にのめりこむ力を殺ぐ役割を果たしている。持ち時間も次第に少なくなってきたし、有効な時間の使い方をしないと、悔いをのこしてあの世に旅立つことになる。まだまだ書きたいこと、やりたいことが山ほどあり、場もあるのに。「香取さん、作家なんだから余計なことをやらないで、物書きに専念したほうがいいですよ」と周辺からはしきりにいわれる。「作家」は良い意味でも悪い意味でも「偏屈」でなければいけないし、「わがまま」であったほうがよいのだが、それが出来ずに「バランス」ばかりとっていると書くものが凡庸になる。そろそろいろいろなことで、バトンタッチをしていかないと……。

■気分転換に品川プリンスシネマでサンドラ・ブロック主演の映画『しあわせの隠れ場所』を見た。一家離散にあった黒人少年を自宅にひきとって、フットボールの名選手に育てあげる実話をもとにした作品で、背景にはアメリカの貧困と人種差別がある。サンドラ・ブロックは前向きに生きるチャーミングな「母」役を見事に演じきり、この映画でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。

■サンドラ・ブロックはワースト映画の主演者にあたえられる何とかという賞も受賞している個性派女優で、ベストとワーストの両賞受賞で話題をまいた。ハリウッドの奥深さを感じさせる。映画にもどると、主人公の元チアガールの母は古き良きアメリカに確実に生きていたアメリカン・スピリッツを体現した女性で、飲食店を80軒以上も経営する夫とともに、「人のために尽くすことが自分の喜びにつながる」という信条の持ち主で、黒人の青年の潜在能力を認めて、我が子同然に育てる。この種の作品にありがちな、家族の「反対」「批判」などは一切ださず、家族をあげてこの黒人青年を成長させていく。

■そういえば、かつてのアメリカには、こういう家族や人物が一定数いたなと思った。大都会には少ないが、中西部あたりには、まだまだいるのだろう。いずれもミシシッッピー大学の卒業者で、最後に黒人の青年は同大学に入学し、プロフットボール界のスターになる。実話に基づいているので、それほどドラマティックな展開ではなく、日常を丁寧に描きながら、おかしみをかもす。笑えて泣け、癒しを得られる作品である。映画館のお客は50人ほどか。周囲でくすすく笑いが起こり、つられてこちらも笑い、すがすがしい気分になった。

■昨今の日本のテレビの「お笑い系番組」に見られる下品さ薄っぺらさは微塵もない。ハリウッド映画の多様さと底力を見せつけた作品だ。もちろん例えば『グラン・トリノ』のような迫力のある問題作ではないが、下手に作法通りにドラマチックに盛り上げない展開がよかった。ひるがえって、日本の文化、社会状況を見ると、いやはやで……どこか外国に逃げ出したくなる。幸か不幸か先立つものがないので、馴染めない空気のなかで生きるしかないのだが。
by katorishu | 2010-03-12 00:48 | 映画演劇