映画『ナイン』はフェリーニの真似で楽しめたが、フェリーニの深さには達すべくもない
2010年 03月 20日
■菊島隆三賞の授賞式が京橋のフィルムセンターで行われた。シナリオ作家協会の主催だが、今年から放送作家協会からも審査員をだすことになった。脚本家が映画の脚本の最優秀賞を選ぶというユニークな賞で、今回は『ディア・ドクター』の脚本・監督を担当した西川美和氏が受賞。『ヴィヨンの妻』の脚本を書いたベテランの田中陽造氏と最後まで争ったとのことだが、若い西川氏が受賞した。
■選考委員を代表してシナリオ作家協会会長の柏原寛氏、審査員の放送作家協会員の冨川元文氏、前年の受賞者で今回は審査員にまわった山田太一氏らが挨拶したあと、西川美和氏に対する質疑応答があった。小柄できびきびした印象の西川氏。まだ30代のはずだが、大変若々しく、チャーミングでもある。こういう若い女性監督がでてきたことで、邦画界にもちょっと明かりがさすかな、と期待したい。脚本は読んでいないが、映画『ディア・ドクター』はみている。前作の『ゆれる』につづき佳作といっていい作品。
■そのあとの懇親会に誘われたが遠慮した。仮に西川氏が懇親会に行くのであったら、小一時間は参加していたかもしれない。執筆作業を優先させた。それはそれとして、邦画界の未来は西川美和氏の双肩にかかっているといってもいいくらいだ。彼女に刺激され若く有能な人材が映画界を目指すと少しは希望が生まれるかもしれない。佳作をつくってきたシネカノンが倒産したあと、映画界は漫画原作でテレビと連動した作品ばかり。心ある映画関係者は嘆いている。
■5時間半ほど原稿執筆に費やしたし、金曜日なので仕事はおしまいにし、カミサンと銀座で落ち合い、丸の内ピカデリーで『ナイン』を見た。イタリアが舞台だがハリウッド映画である。監督はミュージカル『シカゴ』の監督のロブ・マーシャル。ソフィア・ローレンやペネロベ・クルスやニコール・キドマン等芸達者が演じるエンターテインメント・ミュージカルだ。
■主人公の名前はグイドという映画監督で、著名な映画監督が次の作品の撮影が決まっているのに脚本もできず、想がうかばずに苦悩し、女性関係に「逃げる」という話。小説の小説という言葉があるが、映画監督を主人公にした「映画の映画」という1ジャンルがある。これはその類の作品である。フェデリコ・フェリーニの『8か2分の1』(表記ができないのでこれで)という「映画の映画」の傑作があるが、『ナイン』はあの映画のパロディのようだ。
■美術やカメラワーク、照明のテクニックなどは現代の映画技術の頂点といっていいくらい素晴らしいが、内容についてはフェリーニの作品に及ぶべくもない。フェリーニの作品には哲学があり、深いものがあった。一方、『ナイン』はハリウッド映画らしくエンターテインメントに仕上げている分、軽くて薄くなった。大劇場の大音響の音楽ともども画面を愉しむことはできたが。
■終わって、戦前の古雅な壁画を残している銀座の老舗ライオンでビールなどを飲みつつ見てきた映画について、あれやこれやカミサンと語り合った。ライオンの壁画についてカミサンは以前なにかの雑誌にその由来について記事を書いたことがある。で、銀座にでると自然吸い寄せられるようにこの店に足が向きがち。たまには、こういうリラックスする時間も必要である。明日から3連休だというが、毎日が日曜日のような「売れない作家」には関係がない。