コラム


by katorishu
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「テレビの大罪」(和田秀樹著・新潮新書)を興味深く読む

 8月21日(土)
■精神科医の和田秀樹氏が「テレビの大罪」を上梓した。日頃から氏の論には同感するところもあるので早速買って読んだ。氏のテレビの「罪」についての追究は鋭く、深い。自身も一時、テレビのコメンテーターとしてテレビに出たこともあるので、説得力がある。

■氏は「はじめに」でこう記す。「表沙汰になっていない数々の偽装や情報操作によって、多くの人の命を奪っている業界があります。それがテレビです。彼らの不見識は老若男女を死に追いやり、心身の健康を害し、知性を奪い、すなわち日本という国に大きな損失を与えています。一人の精神科医として、父親として、教育に携わる者として、高齢者医療に関わる者として、この深刻な状況を見過ごすわけにはいきません」

■氏がまずあげるのは「ウエストサイズの偽装」である。痩せこそ美しいという情報操作のもと、テレビの出演者が本当はもっと大きいウエストサイズを58センチや60センチと過小申告しているが、氏はこの問題を憂慮している。テレビの出演者でウエスト50センチ台の人はほとんどいないのに、それが事実として通っているため、テレビの影響を受けやすい10代20代の若い女性が痩せすぎの体型をめざす。これは医学的には大変問題のあるとのことで、一種の拒食症をつくりだし、思春期の女性の体に深刻な影響をもたらしているという。

■極端な痩せ願望によって毎年100人以上の若者が死亡しているという。命を落とさないまでも子宮や脳の発達がそこなわれている若者はたいへんな数にのぼる、と和田氏は警告する。現在、テレビのスポンサーにはダイエット関連企業が重要な柱になっているのでテレビ局は痩せを煽ることは危険であるとの専門家の警告を聞かず、日々、痩せてスタイルのいいことを誇示しるタレント、モデルなどを出演させている、とのこと。

■不妊の急増にも痩せは関係しているとのことで、専門家は警告を発しているのだが、そういう専門家をテレビは起用しないし、局側の意向にそった発言をする「素人評論家」を珍重する。その他、勉強をする若者を冷やかし、元ヤンキーな不良をほめあげる風潮もテレビは醸成しており、影響力が大きいだけに、深刻度は大変なものだそうだ。真面目に勉強する若者を揶揄し、人当たりがよく、いかに多くの友達をもっているかが大事という風潮もつくりだしている。こういう傾向を放置しておくと、とくに若者の体と脳に深刻な影響をあたえ、取り返しのつかない事態になる、と氏は警告する。

■また高齢者の問題や自殺の増加に、テレビのゆがんだ報道が悪影響をあたえている点等を、和田氏は精神科医らしく医学的データをあげて論考する。かなりの程度、和田氏の意見に同感する。最近あう人が一様に口にするのは「最近のテレビはひどいね」「テレビは見ないですね」という意見ばかりだ。ぼくもテレビで禄をはんできた人間で1980年代はホームドラマを多作していたが、あのころのテレビと比べると、現在のテレビはまるで別の国のテレビのようだ。時代はつねに動いているのだから、時代を反映するテレビも当然変わっていいはずだが、それにしてもである。

■1私企業なら法律違反をしない限り何をやってもいいし、多くの人の信頼を失えば、つぶれていくので問題はすくないが、テレビは国の許認可事業であり、他から参入の波から守られている特殊な企業で、しかも青少年への影響がきわめて強い。儲かればなんでもよいという姿勢は大いに問題があり、こういう事態がつづけば何らかの規制が具体化する恐れもある。テレビ創生期の関係者はほとんど第一線から退いてしまい、今は団塊ジュニアと呼ばれる人たちが作り手の中心になっているのだろうが、関係者は和田氏の警告に真摯に耳を傾けてほしいものだ。特に経営者は必読である。また関係者ならずとも、子供の親や教育関係者、政治家などなど、ぜひ読んで欲しい本である。テレビというメディアのもたらすマイナス面をじつにわかりやすく解説した本で、読後慄然とする。
by katorishu | 2010-08-21 23:01 | 文化一般