コラム


by katorishu
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緊張感のあるクライム・サスペンス映画『クロッシング』。人間ドラマの趣もあった

 11月3日(水)
■文化の日なので何か文化的なことに時間を使おうかと思ったが、昨日のシンポジウムの疲れが残っていて、早起きもできず予定は崩れた。文化アーカイブズ活性化シンポジウムは、現代日本のトップクラスの知性をもったパネリストが出席しただけあって、内容は豊かで、大変示唆的な意見がだされた。それはよかったのだが、聴衆がすくなかった。準備期間が短かったし、ウイークデーの昼間で、大学は文化祭の真っ最中。さらに堅いと思われる内容なので、足が弾まなかったかもしれない。しかし、開催の意味や意義は十分すぎるほどあった、と自負したい。

■午後、カミサンと銀座へでて歩行者天国を歩いた。歩行者天国を歩くのも何年ぶりだろうか。外国語が多い。新橋まででて喫茶店ですこし仕事をしたあと、タイ料理を食べた。数寄屋橋近くの地下街の一角にある店。庶民的な店が連なり、このあたりの雰囲気もかわった。デフレの影響で、高級店はつぶれるか模様替えをしてしまったのだろう。

■ビールをちょっと飲んだ程度で店を出て、映画『クロッシング』を見た。リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルらが主演の「クライム・サスペンス」で、ニューヨークのブルックリンの公営住宅で頻発する事件にかかわる3人の刑事たちの生き方を鮮烈に描く。それぞれの個人的な「事情」をかかえた3人の刑事たちの、異なった物語が交錯し、最後まで引っ張っていく。緊張感のある画面の連続で、大変面白く見た。

■まさに映画ならではの作品で、嘘っぽくないのがいい。犯罪者と似たような環境におかれた下っ端の刑事たちの生き方は、おそらく景気低迷に悩むアメリカの庶民の心情を反映しているのではないか。とくにイサン・ホークの哀しみを漂わす演技にはひきつけられた。単なる「事件もの」と一線を画した「男のドラマ」で、かつ「人間ドラマ」の趣もあり、見終わって「120分ほど異空間を生きた」という実感を得ることができた。

■スーパーヒーローではなく、犯罪者とあまり違わない生活レベルの刑事たちが主役で、リアリズムに徹した描き方もかえって新鮮である。日比谷のTOHOシネマズで見たのだが、7割ほどの入り。いい映画にはちゃんとお客が集まってくる。もっとも、ここの映画館にやってくる客は、かなりの映画見巧者(みごうしゃ)が多く、今の日本では「例外的存在」かもしれないが。なんとか「文化の日」らしい過ごし方はできたのではないか。
by katorishu | 2010-11-03 23:49 | 映画演劇