コラム


by katorishu
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中国で映画制作を禁じられたロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー』を見た

 12月18日(土)
■今年も残り少なくなっていく。昨日は六本木で日本放送作家協会の理事会。秋元康氏が理事長になってから、従来の「親睦会」的なものから大きくかわりつつある。時代の移り変わりとともに組織もかわっていく。また変わらなければ、「変化」に対応できないとあらためて思う。終わって渋谷にでてシネマライズで中国映画『スプリング・フィーバー』(ロウ・イエ監督)を見た。渋谷でおちあったカミサンと一緒。

■カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した作品で、昨日が最終日。配給会社のアップルリンク社長と日本の映画監督のトークなどもあった。ロウ・イエ監督は『天安門、恋人たち』(06年制作)で、中国でタブーとなっている天安門事件を描き、当局から5年間の映画制作・上映禁止処分をうけている。『スプリング・フィーバー』はそんな処分を無視し、家庭用のデジタルカメラを駆使してゲリラ的に撮影をしたもの。

■30歳前後と思われる男女5人(男3人、女2人)の「純」なラブストーリーといってもいいもので、叙情とリアリズムの混在した群像劇。3人の男はいずれも「男と男」の性的なまじわりをする。つまりゲイの心情を描いているのだが、いやゆる「ゲイもの」とは一線を画していて、なんともいえない「香気」といったものさえ感じさせる。舞台は南京でドキュメンタリーの手法をとりいれた巧緻な作品。

■ラストで1920年代30年代に活躍した作家、郁達夫の「春風沈静の夜」のなかの『こんなやるせなく春風に酔うような夜は私はいつも明け方まで方々歩き回るのだった』といった文章を読むシーンがでてくるが、郁達夫という作家の名前をスーパーで見て、「なるほど」と納得した。家庭用のハンディカメラで撮った効果が全編にでており、揺れる光景が人物たちの心情をシンボリックに描出しているし、音楽の入れかたも効果的。台詞はすくなく、説明的シーンはほとんどない。この作の脚本を書いたメイ・フェンは脚本を書く前に「小説」に近いものを書いた、とトークでアップルリンク社長が話していた。どんな脚本であったのか、読みたいものだ。メイ・フェンは中国の映画学校で教えているとのこと。ほぼ一年前北京の映画学校や映画制作組織を訪問し、講師やプロデューサーなどと意見交換をしたので、いっそう興味深く、この映画を見た。

■本日が最後というのは残念なことである。こういう佳作、秀作にかぎって「単館上映」であり、一部の人しか見ることができない。いずれDVDになるであろうが、おすすめの一作である。ハリウッド映画ともまったくちがった、独自の映像表現で、映画の可能性を切り開いた作といっていいかと思う。ラスト近く、女性に喉をきられ傷をおった青年が喉から胸にかけて刺青をし、南京の町を歩くシーンはきわめて魅力的で「すごい」という一語に尽きる。役者の演技も自然で、わざとらしさがなく、好ましい。説明や解説過剰のテレビや映画とは一線を画した佳作。5点満点の5としておこう。
by katorishu | 2010-12-18 05:08 | 映画演劇