コラム


by katorishu
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石原慎太郎都知事の「若書き」のテレビドラマ『降霊』

 2月10日(木)
■現東京都知事の石原慎太郎氏が、芥川賞を受賞して間もないころ、テレビドラマの脚本を書いていたことを、何人の日本人が知っているだろうか。「降霊」というタイトル。名古屋の東海テレビ制作で第15回芸術祭参加作品。今から50年近く前のことである。たまたま脚本アーカイブズの書棚に並べられていたものに「テレビドラマ」という雑誌があった。50年ほど前のもので変色しぼろぼろになっている。

■ぱらぱら見ていったところ「石原慎太郎脚本」という文字が目に入った。『太陽の季節』で氏が華々しくデビューしてまもないころ映画シナリオを書いていたことは知っていたが、テレビドラマ脚本を書いていたことは知らなかった。コピーして帰宅してから読んだ。憑依現象をあつかった作品で、戦後10数年たって、ある男が戦友の「未亡人」と結婚しようとしたところ、未亡人はしきりに夫が反対しているという。すでに夫は南方の戦地で死んでいるはずで、求愛した男はそんなはずはないと否定するが、未亡人は「あの人の声が聞こえる」「電話してきた」などといって、半狂乱に。

■病院で彼女を診た医師が自分の知り合いの降霊を研究している研究者がいるので、そこにいってみるとよいという。そこで二人は降霊会にいく。由起という主催者にこういわせている。「つまり、それは転位といって一種の憑依現象でしょう。転位というのは人間の知らぬ何かの力、つまり霊が、ある種の物体を人間には不可能なところに運ぶのです」

■そのあと、霊界で霊媒についている手伝い役の支配霊をよびだす。すると、テーブルが宙に浮いたり、そんほかオカルト的な出来事が起こる。結局、戦場に起き捨てられた夫が出現したり、その人の声で恨み言が語られ、未亡人は再婚をしないという予感で終わる。当時のスタジオドラマの条件に従い、数セットしかない舞台なので、台詞劇の趣。

■「若書き」の例に漏れず、脚本の完成度としては、ちょっとといったところ。ト書きなどもぶっきらぼう。昔はこんなドラマをやっていたのだなと思った。ドラマ自体はもちろん残っていない。それにしても、当時「価値紊乱者」の栄光などという勇ましいエッセーを書き、「太陽族」ものやスポーツもので野性的、男性的な要素を純文学にもちこんだあの石原慎太郎が、こういう憑依現象を肯定し、しかも純情な要素で貫かれたテレビドラマを書いていたとは、少々驚いた。初期の石原作品、とくに短編には目を見張るものがあり、いくつも読んでいるが、同じ時期にこういうものを書いていたのである。石原氏の「別の面」を見る思いだった。

■なお雑誌「テレビドラマ」は5年ほどで廃刊になったはず。国会図書館にいけば読めるかもしれない。業界関係者でもこんな雑誌があったこと自体、知っている人はほとんどいない。ぼくも数年前に知ったほどで、手にとって中身を読んだのはごく最近。他にも大変面白い記事が満載で、テレビ創世記の関係者の熱気が感じられる。和田勉さんが熱く演出論を語ったり、そのほか諸々。読むに値する雑誌です。
by katorishu | 2011-02-10 12:04 | 映画演劇