コラム


by katorishu
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映画『ツレがうつになりまして』は小品ながら癒しをもたらす佳作

 10月25日(火)
■近年、テレビの連続ドラマ化したものの映画化が目立つ。しかも原作がコミック。それだけで敢えて映画館に足を運んで見る気がしなくなるが、なかには映画作品として上出来のものがある。ぼくの見た範囲では『八日目の蝉』がそうだった。たまたま時間があいたので品川プリンスシネマで『ツレがうつになりまして』(佐々部清監督、青島武シナリオ、宮崎あおい、堺雅人主演)を見た。確か藤原紀香主演でNHKの連続ドラマとして流れていた。

■この映画はテレビドラマとは主人公役も作り手もまったく違う。同じなのは細川貂々の同名のコミックエッセー。結婚5年目にして鬱病にかかった夫を、漫画家である妻の立場から描いたものだ。地味ながら多少ファンタジーの要素を加えて丁寧に描いていて、ひきこまれる。先行き不安だらけで明るさの少ない社会である。鬱病ないしその予備軍は膨大な数にのぼっているに違いない。鬱病にかかる人は生真面目で几帳面な人に多いといわれる。本映画でも堺雅人演じる「ツレ」は生真面目一方。ある日、体の変調をおこし、会社でもミスをしたりして、自分が社会に用なきものと思い込む。不眠がつづき憂鬱でなにもしたくなくなる。そんな夫を、「売れない漫画家」である妻が、いかにも彼女らしい独特の味をだして支える。





■心あたたまる物語だ。おおらかな性格の妻はほどなく悟る、「頑張らないこと」であると。この世の中、頑張れ、頑張れがあふれているが、「いや、頑張らなくていいのだ」、もっと自然体にゆったり、ゆっくり生きたほうが心の安心を得られる。そんなメッセージが、そこはかとなく伝わってくる。この夫婦が飼っている泰然自若としているイグアナが、シンボリックな小道具として随所に登場するが、これも効果的だ。

■堺雅人の主演作品はこれまでいくつも見ているが、このツレの役も秀逸。堺雅人ならではの味をだしていた。それと、妻役の宮崎あおい。この人がこんなにも微妙な表現を全身でできる才能の持ち主であったかと、認識を新たにした。いわゆる「モデル系」のスタイルの良い女優の多い中、こういう素材の持ち主は光る。近頃希有の逸材である。大河ドラマ『篤姫』で夫婦役を演じた二人だが、この作品での演技は「素晴らしい」の一語。

■オーバーアクションで、飛んだりはねたり、怒鳴ったりする役は、じつは誰でもできる。静かな動きのなかに、その役の味をじわーっとだすのは、そう簡単ではない。簡単でない微妙な味わい、肌触りといったものを、二人は過不足なく表現している。表現を引き出した佐々部監督の功績でもあるだろう。良い映画は例外なく小道具を効果的に使っているが、この映画も例外ではない。今年ぼくが見た邦画のなかで、小品ながらベスト3にはいる佳作といってよい。おすすめです。映画館の入りが2割程度なのは残念である。日本映画も頑張っている。それを支えるには映画館に足を運ぶお客である。ぜひ劇場に足を運んで見て欲しい、と思う。
by katorishu | 2011-10-25 09:46 | 映画演劇