コラム


by katorishu
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クリント・イーストウッド主演の映画『人生の特等席』は、心が洗われる佳作

11月29日(木)
■特に大きな不幸もないのだが、小さな喜びもない「なくてもよい」日々が、このところ続いている。気晴らしに温泉などにいく手があるものの、連載原稿も思うようにすすまず、そんな時間もない。で、手っ取り早い気分転換の手段として映画を見る。DVDなどで見るのではなく、暗い映画館で見るのである。

■本日は韓国映画のマスコミ試写があり、京橋まで行く予定であったが、気がわって品川プリンスシネマで、クリント・イーストウッド主演の『人生の特等席』を見た。イーストウッドの関係する作品は大抵裏切られることがない。今回は監督ではなく主演である。長年大リーグの名スカウトとして腕を振るってきたものの年のせいで視力が弱ってきた父と、父と長い間疎遠であった弁護士の娘の物語だ。

■ハリウッド映画らしく最後は型どおりのハッピーエンドで終わるのだが、緻密な構成と台詞、それに演出で、最後まであきずに見せ、型どおり感動のラストにもっていく。監督はクリント・イーストウッドから17年間にわたって映画制作を学んだというロバート・ロレンツ。イーストウッドはプロデューサーとして参加している。





■この映画を見ていて、「ジャパン・ハリウッド」は夢のまた夢で終わりそうであるな、と改めて思ったことだった。アクションものであったら、大金を投じればハリウッド映画に匹敵するものを創ることは可能だとは思うが、細かな描写や構成、演出、演技等々が必要となる映画の場合、日米には以前として大きな差がある。

■この作品、ディテールがじつにいいのである。最後の感動のシーンで、ちゃんと泣ける。邦画にもときおり絶品とよべる作品はあるにしても、アメリカ映画の「最良の作品群」にはなかなか及ばない。演技力の問題なのか、文化の違いなのか、資金力の違いなのか、あるいは制作システムの違いなのか。

■父と娘の葛藤を描く作品である。日本映画であったら、ウエットになってしまうところを、この映画は乾いたタッチですすめていく。日本製の車や家電は、低迷しているとはいえ世界に通じる商品となっているのに、実写の映画やテレビは、いつになってもグローバルに展開できない。アニメやマンガはグローバルな展開が出来ているのに、なぜ出来ないのか。原因のひとつは、映画もテレビドラマもドメスティックすぎるのである。この姿勢をあらためないと、少子化の流れのなか日本の映像業は沈む一方である。
by katorishu | 2012-11-29 23:22 | 映画演劇