コラム


by katorishu
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もっと若かったころのタモリ氏の「すごい話術」

 4月1日(火)
■昨日、新橋駅前の「機関車広場」を歩いていたら号外が配られていた。何事かと思って受け取ると、「笑っていいとも」が32年の幕をとじることについての号外。大袈裟なと思う人がいるかもしれないが、32年間も月から金にかけて休まずに続けたこと自体がすごい。
タモリという人には数多のタレントにない知的なものを感じる。この長寿番組がはじまるちょっと前と記憶するもっと若かったころのタモリ氏の「すごい話術」_b0028235_112644100.jpgが、友人の某売れっ子作家(当時)に誘われて銀座の「文壇バー」にいったことがある。当時は僕も一応「売れっ子脚本家」であり、のべつ幕なしにドラマを書いていた。
その文壇バーに、先客が二人いた。一人は隅でビヤ樽腹をだしてイビキをかいていた。もう一人、たんたんと水割りかなにかを飲んでいる男がいた。それがタモリさんだった。

■狭い店なので、初見でも会話が成り立つ。どういうきっかけであったか忘れたが、入ってきた客がけっこう傲岸な印象の中年男だった。タモリさんはぼくらと、その客を間にはさんでさりげなく会話をしたのだが、そのうち、タモリさんのいっていることが、その傲岸な印象の客を揶揄していることだとわかった。以後、こっちもタモリ流話術にのって、しばし、その客を「こきおろし」た。
お客は自分が揶揄され、こきおろされていることにまるで気づかず、むしろニコニコして、「そうだ、そうだ」と他人のことだと思って唱和する。
ぼくはゴーゴリ作の「検察官」のことを思い出していた。ゴーゴリはその作で帝政ロシアの官僚制度を徹底的にコケにしていて、コケの対象は官僚のトップにいる皇帝なのだが、芝居を見に来た皇帝はそれに気づかず、腹をかかえて笑った‥‥。この諷刺精神がすごい。





■ここに「笑い」の原点があると思うのだが、タモリさんは計らずもゴーゴリ役を演じていたことになる。僕も酔っていたので調子にのって、その男を当てこすり揶揄した。当人に気づかれそうになると、タモリさんが絶妙のタイミングでニコニコして言葉をはさむ。具体的にどういう内容であったか忘れたが、それからしばらくしてタモリさんが「笑っていいとも」で頭角を現した、と記憶している。

■この人、ニコニコしてバカをいっているが、相当頭のいい人だな、と思った。あてこすられた客が上機嫌で帰ったあと、イビキをかいて寝ていたビヤ樽腹のオジサンが目をさました。よく見ると、SF作家の小松左京氏だった。小松氏は半身起き上がって目をこすり、一杯飲むとまたイビキをかいて寝てしまった。それで、毎月大変な量の小説を書いていたのである。それにしても、タモリさんの淡々として変わらない姿勢は、見上げたものだ。タモリさんと会ったのは、その一回きりだが、妙に印象に残っている。
by katorishu | 2014-04-01 11:27 | 文化一般