コラム


by katorishu
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勝手に辞めるのはいいけれど

 3月16日(水)
 ぼくが卒論を担当した学生で、今春卒業したY君が、卒業をひかえ就職できないで困っていると聞き、知り合いのソフト制作会社に紹介した。前年、やはり卒論指導した女子学生のK嬢を紹介したところ、彼女は優秀で、とってもいい人を紹介していただいたと喜ばれたが、彼女はこの春、思うところあって、他の道を歩くことになった。
勝手に辞めるのはいいけれど_b0028235_11461.jpg(写真はソウル市内)その話を去年の秋に聞いていたので、Y君を紹介した。一見してひ弱そうに見えるので、ぼくとしてもやや危惧するところがあり、「制作会社の仕事はかなりハードで、自分の時間などあまりもてない。はいって、きついから、すぐにヤーメタというのでは困る。少なくとも、1年間は、どんなに辛いことがあっても我慢して勤めなければだめだ」と話した。
「そうします。映像の仕事をやっていきたいので、ぜひ、お願いしたい」というので紹介した。専務氏と面接し、当初はアルバイトであるが、採用ということになった。
 本人からも、ありがとうございましたというメールがきた。
 本人が映像制作をつづつけたい意思があるので、いずれ様子をみてちゃんとした待遇にする、彼を育てたい……と専務氏はぼくとの電話で話していた。
 卒業旅行でY君は中国旅行かなにかに行ったらしい。それはいいのだが、帰ってきて早々、突然、机の上に「辞表」を置いたまま、会社にでてこなくなった。連絡もとれないという。
 その知らせを、今週やめる予定のK嬢からの電話で知った。

 K嬢の後釜ということであったので、Y君に仕事の引き継ぎ等をして、K嬢は今週、退社することになっていた。
 K嬢の話では、Y君が勤務したのは実質一週間ほどであったという。真面目な性格なので、慣れない煩雑な仕事でもあり、疲れがでていたのかもしれない。
 ただ、職場でとくにトラブルもなかったとのこと。辞めるのは本人の自由だが、やめ方というものがあるはずである。
 紹介したぼくにも、なんの連絡もない。電話をしても、つながらない。
  辞表の理由として、1年半ほどの「人生の方程式」がとけたので、パプアニューギニアに行く、時間がないので、文面で失礼する……といったことが記されていたという。
「辞めるのは仕方がないとしても、ああいう突然の形で辞めては、社会人として人から信用されなくなる。香取さんからも、本人に伝えてください」とのこと。

 ぼくは、唖然としてしまった。
 あれほど念をおして聞き、「がんばります」といっていたのに、これである。
 自分のやりたいことを優先させるのはいいとして、世の中にはエチケットというか礼儀というものがあるはずである。
 仕事が自分に向かないなら向かない、急に他にやりたいことが生まれたので、そちらに……ということは、ありがちで、それは悪いことではない。しかし、その場合でも、それなりに「世話」になった人に、たとえ電話でも一言あってしかるべきである。
 すくなくとも、以前の大学生は、そんな失礼なことはしなかった。
 面と向かいあうと言えなくなってしまうので、敢えてあわずに……ということもあるかもしれないが、コンビニのレジかなにかのアルバイトならマニュアル仕事なのでAがすぐにBに代われるが、いくら現在はアルバイトといっても、そういうものではない。コンビニなどでも、予定していたのに、一方的に突然やめられたら、経営者は困惑するだろう。

 こういう若者には、しっかりした仕事はとてもまかせられない。
 たとえば芝居などでも、上演に向けて稽古をつづけてきたのに、直前になって突然、やめたと姿をくらまされたら、主宰者はたまったもんではない。

 Y君のケースは例外と思いたいが、「無責任」で「自己中心的な」若者は、増えているようだ。若者ばかりではなく、いい歳をした大人までが、社会性のない行動をとるケースも多い。
 魔がさす……といったことは、誰にでもあり、人間は間違いを犯す動物だが、問題は間違ったり、ミスをおかした後の「処理」である。こうこうこういうワケだから、こうする、こうしたいといった「説明」がないのは、いただけない。
 この社会は人と人との信頼関係でなりたっている。意見等が衝突し、やむをえず、信頼関係を破らなければならないケースは、ままあることだが、Y君のケースはそれとはちがう。それなりの「説明」がほしい。「弁解」でも結構。「そうか、なるほど」とちょってでも思わせるものが欲しいのである。
 身勝手さを優先していると、今度は、当人が困ったとき誰も助けてくれなくなる。チームワークでやる「仕事」とはそういうものである。
 それがいやなら、はじめから、就職などしないことだ。己一人の才覚で生きていく覚悟をもつことだ。「対人コミュニュケーション能力」という言葉がある。少々の能力があっても、この能力がないと、せっかくの能力を発揮できないケースが多い。
 人を「説得」し、「納得させる」能力。これからの社会で、一番必要とされる能力かもしれない。
 この能力に欠けた若者が増えていることに、ぼくなど危惧を覚える。犯罪者などに共通するのは、この能力の欠如である。欠如しているから、いらぬストレスをかかえこみ、陰湿な形で暴発したりする。

 Y君、もしどこかでこれを読むようなことがあったら、一言連絡をください。
 専務にも、ひとこと電話、あるいはメールででも、「説明」をしてください。
 何か秘めたものがある青年……と思って、専務氏に推薦したのです。こういう辞め方は、長い目でみて、貴君のためにならないとぼくは思います。
by katorishu | 2005-03-17 01:44