うたた荒涼
2005年 03月 22日
春分の日の振り替え休日。お彼岸でもあるし、八王子の実家に行く。「実家」といっても、すでに父も母もなく、弟の工場と、裏に元はアパートであった茅屋。ほとんどは物置場になっており、親父が一人で住んでいた二階の一室のほか、しばらく前から誰も住んでいない。親父が手作りでつくった人形や祖父母のモノクロの「肖像画」、母の肖像画等々……。
一室は親父が一人で生活していたときのままになっている。「当分はこのままにしておくつもり」と親父の家業を継いだ弟。
昔のべつまくなしに書いていた、テレビドラマの台本や資料等のはいった段ボールが、何10箱もあるのだが、すでに10数年前に一階の倉庫のような部屋に放置したまま。雨がふきこんだとのことで、どうなっているのか。見るのが怖いような気がして、そのままになっている。
比較的大きな犬小屋には、青いビニールシートをかぶった本の山。今の住居が狭いので、保管してもらっているのだが、これもどうなるか。
周囲の景観は以前と全く変わってしまい、「思い出」につながるものは何ひとつ残っていない。 うたた荒涼という気分だ。ここは「八王子」かもしれないが、すでに「ハチョージ」ではない。
ぼくの学生時代の友人のT女史が論説委員を勤める某紙では、盛んに「愛国心」の涵養をといているが、いつのころからか、ぼくはどうもこの国にアイデンティティを感じることができなくなっている。
かといって、他の国にアイデンティティを覚えるわけではないので、このまま住み続けなければならないのだが。少々疲れて、どうも鬱になっているようだ。
大阪在住の作家、金井貴一さんから久しぶりに近況報告のメール。「小説東京裁判」執筆の準備をしているという。大作、力作になるにちがいない。
金井さんは「帝銀事件」「下山事件」など昭和史を題材にしたユニークなミステリーを書いている。ぼくよりずっと年長だが、相変わらず筆力旺盛だ。ヤフーの検索エンジンなどで「金井貴一」で検索してみてください。いずれも大作で圧倒されます。ほかの筆名「谷川涼太郎」で文庫書き下ろしのミステリーを何冊も書いています。