コラム


by katorishu
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金力には「文化力」で

3月23日(水)
 ライブドアのニッポン放送株、買い占めは、東京高等裁判所の裁定によって、どうやらライブドアの「勝ち」となったようだ。ライブドアの視野には当然、フジテレビがはいっており、今後、守るフジテレビと水面下で虚々実々のかけひきが行われるのだろう。
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この10年ほどで、民放キー局は、デジタル化に費用のかかることなどから、競うようにして株を上場したが、まさかこんな「攻撃」を受けるとは誰も予想していなかっただろう。

 ITバブルのとき、ある集まりで雑談した「IT長者」氏は、自分は3000億を動かせると豪語していた。少々酔っていたが、香取さん、今度一緒にバンコクのお寺にいきましょう、とも語った。お金はざくざくはいってくるものの、胸に大きな空洞があいており、それを癒すにはバンコクにいって寺で数日過ごすのが一番いいとのことだった。
 その集まりで、ぼくは短い「講演」をしたのだが、もともとあまり話術が得意ではなく疲れてもいたので、とりとめのない話になってしまった。ITなどで日本は救われない、大事なのは心の問題……といったことを語ったという気がする。終わって真っ先にぼくのところにきて、ぼくの著書を何冊も買ってくれ「面白かった、胸にこたえた」と彼は語った。雑談の中で、彼がIT長者であることを知った。
 IT技術を駆使して富を得たのではなく、パソコンの組み立て販売で成功したようだ。
 高校卒なのに、今は東大卒を使っている……と誇らしげに語っていた。
 その後、彼は某中堅スーパーを買収し、一時は日の出の勢いであったが、ITバブル崩壊で勢いは消えてしまったようだ。一時はテレビでCMを流していた彼の会社も、最近はあまり広告も見ない。作家というのが珍しいのか、その後、会いましょうと連絡をしてきた。一度あったときは、日本社会を痛烈に批判している評論家の斉藤貴男氏が一緒だった。斉藤氏が雑誌のインタビューで彼を取材した縁のようだった。
 ぼくがシナリオを書いた映画の件で、頓挫している時期でもあったから、ふと、「映画に出資しませんか」という言葉が出そうになっていた。
 資金があったら、ぼくにしてもいろいろやりたい試みがあるのだが、すべて先立つものがないために、実行できない。
 その日は、別の集まりに出席する予定があったので、早めに辞してしまった。以後、あまり話をする機会もなく、そのままになっている。
 頭の回転が速い人で、即断即決で、社員を動かす。乗っ取った某スーパーを視察したときの彼の姿が、某テレビに出ていたが、確かにそれまでの「成功体験」によりかかっている人間にはない、機転や客の気持ちをつかむ能力が備わっているようだった。

 ホリエモンは、彼とはまた別の「IT長者」なのだろう。両人ともでっぷり太っている点が共通している。「太った豚」より「痩せたソクラテス」のほうにシンパシィを感じるぼくとしては、あまり親しくつきあいたい相手ではない。
「株式資本主義」ということで、こういうアメリカ式のドライに割り切った「合理的」な経営者が日本を牛耳っていくことになるのだろうか。
 既得権益にいすわっている人たちも問題だが、「節度」とは対極のこういう人がお金は合理的だとして、金力で各方面に支配力を発揮していくとしたら、やはり問題である。
 いずれ、政治家をも金力でつくりだしてしまうかもしれない。あの「今太閤」といわれた田中角栄元首相のように。ホリエモン本人は政治家にならないだろうが、金力で政治家を動かすことは日本の政治風土だと容易にできそうである。
 それが一番怖い。
 金力には「文化力」とでもいったもので、対処するしかない。
 やせ我慢の思想といっていい。有意の人は、金だけでは動かない、ということをホリエモンは、いつわかるであろうか。恐らく、彼の金力にあずかろうと、いろいろな人達が彼に今後ますますすり寄っていくにちがいない。
 そのときである、ホリエモンの本当の姿が、はっきりと見えてくるのは。
 金儲けもいいが、自分一人の力で儲けたと思っていたら、某鉄道会社のオーナーのように、いずれ大きな間違いを犯す。ボランティア精神を大いに発揮して欲しいものだ。ビルゲイツだって、過日のスマトラ大津波では膨大な援助をしているし、「金融王」のジョージソロスも、莫大な資金を投じて教育施設を貧しい地域につくっている。
 悲しいことに、日本の「成金」にはそんなボランティア精神が欠けている人が多い。そもそもそんな精神をもっていたら、あそこまで太ることはできないのだろう。
by katorishu | 2005-03-24 03:44