小川国夫の文学
2005年 04月 04日
過日、椎名麟三の「邂逅忌」の際、小川国夫さんにお会いしたので、久しぶりに小川文学を読んでみた。書き下ろしのノンフィクションの原稿が予定より大幅に遅れており、そんな暇はないはずなのだが、小川さんの作品はほとんどが短編なので、過日、図書館で借りた「小川国夫自選短編集」の中の数編を読んだ。
小川さんの本は初期の短編集『アポロンの島』をはじめ、ほとんどもっているのだが、二度の引っ越しでどこへまぎれこんだのか、わからない。ビニールケースに5,60箱、八王子の「実家」に保管してもらっているので、あるいはそちらにはいっているのかもしれない。
小川作品の特徴は、短くて簡潔に彫琢された文体にある。光の裏側にある影、生と死の流転の相が深く刻まれていて、ストーリーらしいものもない展開だが、人間存在の不可思議さをつきつけてくる。
例えば『あじさしの洲』のなかのこんな文章……
『彼が渚の方へ行くと、海布(め)のからまった細かい流木が寄り集まって、波の線を描いていた。そして、流木をまとって、松の根っこが砂に坐っていた。波に洗われていたが、動きはしなかった。浩は波をやり過ごして駆け寄り、それを引きあげようとした。ズッシリと重く、動かなかった。波が這って来て、足を浸した。彼は改めて海を見た。波が動いているのか、自分が動き始めたのか境目が判らない、手応えのない、抗しようのない移動が始まった気がした。それは世界が麻痺しているような楽しさが混じっていた。』
これだけでは、小川文学の精髄はわからないかもしれない。現在、講談社の文芸文庫で手にはいります。興味のある方は、ぜひ一度手にとってください。
小川さんはぼくの最初の短編小説集『隣の男』の帯を書いてくださったのですが、凡庸な才のぼくにとって、それがどれほど励ましになったか。
PRめきますが、その帯の部分を表示します。
ところで、本日、小山内美江子氏のところでアシスタントをつとめてきたH嬢が、テレビ制作会社、「アズバーズ」への就職が決まったとか。
とにかく、おめでとう。彼女は早稲田二文でのぼくの教え子で、極めて熱心な学生でした。
そのうち、また本人にあい、彼女のことも、ここで場合によっては本名をだしてとりあげるかもしれません。