映画「アメリカン・ドリーマー」は「歪んだアメリカン・ドリーム」を描いた傑作
2015年 11月 05日
■「歪んだ」アメリカン・ドリームを描くハリウッド映画「アメリカン・ドリーマー」(原題[A most violent year]。
5日で上映が終わるというので昨日、日比谷の映画館に足を運んだ。アメリカでもっとも犯罪が多発
■一方、アベルの会社は検事から脱税と詐欺の疑いで狙われている。新居の豪邸に一家が引っ越した前後から、アベルの会社のガソリン運搬車が頻繁に襲われ、ガソリンを奪われる事件があいつぐ。なにしろ1981年はアメリカ史上、もっとも犯罪の多発した年として記録されている。ガソリン運搬車の運転手が銃をもっていたことなど諸々悪条件がかさなり、銀行からの融資をアベルは断られる。30日期限が迫っている。残金をユダヤ人に渡さなければ、アベル夫婦は破産だ。アベルの妻のアナ(ジェシカ・チャスティン)はブルックリンのギャングの父をもつ。アベルが一代で財産を築いた背景には、マフィアを思わせる連中との交流もあり、今は、彼らがアベルの会社のガソリン車を襲い、ガソリンを転売しているらしい。
■すべてを失うかもしれない緊迫した状態のなか、アベルは焦り、知り合いのギャング仲間から高利の借金をするが、自身は高潔にふるまい……かろうじて破産をまぬがれる。妻の意外な「措置」が苦い味の「功を奏して」。ラストの衝撃的場面など、全編を通じて緊張感が漂い、いわゆるハリウッド映画の「ウエルメイド」の作り方と一線を画した構成、人物配置だ。「これが本等のアメリカ」と思わせるものを宿していて、興味深い。
■富はけっして、きれいごとで生まれるものではなく、ダーティなものと両刃の刃であり、そこにはギャング、ユダヤ人がはいりこみ、彼らと一体となって「アメリカン・ドリーム」が生まれている。そんな「ありのままの」アメリカを鋭く描いた異色の作だ。
脚本・監督・制作はJ・C・チャンダー。長編2作目だが、新しい才能ある映像作家の誕生といってよいだろう。
■それにしても、1981年のアメリカの荒廃ぶりは、こんなだったかなと思うほど荒れている。それが十数年で金融大帝国になる。富裕な国も人も、十年ちょっとで崩壊する可能性をひめているし、逆に再生する可能性もある。その場合、「きれいごと」ではすまない。盛者必衰。世は常ならず、という言葉が脳裏をよぎる。アメリカンスタイルに追従する日本も同じ。いつ崩落するかわからない。そしてまた、いつ再生するかもしれない。ただ、富の集中するところ、必ずといってよいほど「悪の虫」がうごめく。
今のアメリカをシンボリックに、風刺的に描いた作と受け取ることもできる。
見るに値する映画です。日比谷シネシャンテは本日が最後ですが。
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