コラム


by katorishu
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権力という妄執

 10月6日(木)
 昨晩、雨の軽井沢から帰る。文革時代、無実の罪で5年余りも北京監獄で幽閉された元「友好商社」マンのS氏にインタビュー取材。録音テープを15時間余りもまわした。それでもまだ半分ほどか。少々疲労気味。
 S氏はあることがきっかけで国民党の特務機関関係者であると疑われ、突然、北京で公安に逮捕された。あの時期、何人かの商社マンがスパイ容疑で捕まり、毛沢東思想に染まった世間知らずの紅衛兵に厳しく尋問された。
 時代の「空気」というのは恐ろしい。後から振り返れば、なぜあんなことを……と思えることが、その当時は、きわめて当然で正義の後ろ盾がある、と思えていたのだろう。一種のマインド・コントロールにはまっているのだが、渦中にある人間は気づかない。

 文革の被害者は相当な数にのぼり、一説には1000万人が死に至らしめられたという。(はっきりした数字は今もよくわからず、数10万人という説もある)。その前の「整風運動」「大躍進」の時期には、2000万人が餓死したとのことだ。(こちらは信憑性がある)
 「社会主義市場経済」という面妖なシステムのもと繁栄を誇る中国は、そんな土壌の上に立っている。
「貧富の差が極端になっているし、このままではいかないでしょうね」とS氏。ぼくも同意見である。貧富の差が拡大する社会に安定はない。歴史の教えるところである。
 
 それにしても、毛沢東という人物である。それと、壮大なスケールの権力闘争の歴史をもつ中国という国。面白いといっては語弊があるかもしれないが、日本の権力闘争など児戯に思えてしまう。
 権力を握り、それに妄念を抱くようになると、権力維持のために、人がどういうことをやるか。
 毛沢東という人は、誇張された形での典型例である。革命が成就するまでの毛沢東は清廉で詩人的センスも発揮し、「偉大な指導者」としての能力を遺憾なく発揮したが、いったん権力を握り、神格化されるにつれ、何かが狂ってしまったのだろう。

「妄執」や「妄念」のとばっちりで殺されたり、投獄されたりした人間にとっては、迷惑この上ない。当時、日本の知識人(好きな言葉ではないが「進歩的知識人」という人もいる)の中には文革を賛美した人も多く、そんな思想の影響を受けた学生たちが、全共闘運動を展開した。いわゆる「団塊の世代」と称される世代の学生たちで「永久革命」と称し、「造反有理」をかかげて「燃えていた」。
 今、彼等が何をし、何を考えているか。無反省、無節操に金儲けにいそしんでいる人たちも多いようだ。 過日、「全共闘世代」の人と酒を飲む機会があったが、半ば冗談ながら、「日本を悪くしたのは、あなた達の世代ではないか」と意見を述べた。
 日中貿易が柱になるが、そんな世代の心情も加味したノンフィクションになれば……と思っている。
by katorishu | 2005-10-06 22:20