コラム


by katorishu
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『上海ベービー』の明るさと透明感

10月12日(水)
 仕事の合間に上海の若手女流作家のベストセラー小説『上海ベビー』(衛慧・ウエイホエイ著)を70ページほど読む。ヘンリー・ミラーが好きだという「小説家」の女性を主人公にした小説で、赤裸々なセックス描写などで話題をよんだ作品だ。
 ぼくもかつてヘンリー・ミラーには心酔していた時期があるので、興味深かった。
 昔読んだフランスの現代小説のような趣で、第二次大戦前後のデガダンスの空気にあふれていたパリの雰囲気が今の上海にはあるようだ。

 もちろん翻訳で読んだのだが、感覚的にも新しく、ある種の透明感もあり、アメリカ映画の話題やブランドものについての会話などがさりげなく挿入され、これなら世界に通じる、と思った。
 毛沢東の文革の時代は「過去」のものになりつつあるようだ。だが、こういう自由な空気は上海など大都会に限られ、農村部ではこうはいかないのかもしれない。
 農村部での不満、鬱屈は強まる一方のようで、今後の中国情勢は懸念される。
 
 この小説には、拡大する貧富の格差など社会問題は出てこないが、デカダンスの背景にはそんな状況があるのかもしれない。
 それはともかく、気のきいたセンスのある文章で読者をひっぱっていく。なかなかの才能であると思った。
 暗さはなく、不思議な透明感、明るさが背景から漂ってくる。
 以前、青島であったか、中国沿岸部に住む若手女性監督の『恋の風景』という映画を見て、日本の若い層を同じ感覚だと驚いたことがある。
 ボーダレス化は確実にすすみ、作品は国境をこえて広がっていく。この傾向は望ましいことだ。考えてみれば、現在、日本で結婚するカップルの10組に1組は国際結婚であるのだから、当然の流れであり、この傾向が強まると、豊かな作品が輩出するのでは……と、ちょっと明るくなる。
by katorishu | 2005-10-12 20:37