コラム


by katorishu
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毛沢東の真実

 11月23日(水)
 勤労感謝の日で祝日だが、「毎日が日曜日」のようでもあるフリーランサーには実感はない。仕事をしているといえば、1年365日仕事をしているし、半ば「遊び」といわれると、そうかなとも思える。趣味と実益をかねているからこそ選んだ職業であり、この「不安定さ」という「特権(?)」は手放せない。

「毛沢東の真実」(北海閑人著・草思社)を極めて面白く読んでいる。5分の4ほど読んだところだが、毛沢東という人間の「悪魔的側面」をあますところなく伝えていて、面白い。といっては語弊があるかもしれないが、とにかく毛沢東の権力への執念はすさまじいもので、権力保持と自己の「理想」の追求のためには、人の命などなんとも思っていないようだ。
 毛沢東は明朝の永楽帝を理想化していたようで、自分の権力維持のためにどれほど非人間的な権謀術数を行使してきたか、唖然とすることばかりだ。

 中国人自身が「毛沢東の真実」を知らなすぎる。過去は過去として忘れようといった文化政策をとっており、教育でも「反日教育」には熱心だが、文革やそれ以前の反右派闘争など、何千万人を死に至らしめて毛沢東の独裁については、ほとんど教えていないようだ。中国で、現在、若い人の中には文革はフィクションだと公言する者も出てきているという。

 筆者は筆名で身分などを明らかにしていないが、北京に住む年配の知識人とのこと。香港の雑誌「争鳴」に連載されたもので、極めて説得力がある。「争鳴」は毛沢東の死去した翌年に創刊されたもので、世界各地にいる中国ウオッチャーに北京指導部内の暗闘を伝えているとのことで、中国では「禁書」になっているが、多くの中国人に密かに読まれている。

 ぼくなど、毛沢東が、おかしくなったのは権力を把握した1949年以降だと思っていたが、閑人氏によると、1930年代、中国共産党内で権力を獲得していく上で、仲間や同郷の人間をとことん利用した。そうして必要でなくなると切って捨て、死においやるという極めて非情な面をもっていた。

 中国を支配した皇帝とほとんどかわらない手法であり、そんな権力維持の毛沢東式メカニズムが鮮やかに活写されていて、胸に迫る。
 大躍進や文革の時代を通じて、毛沢東によって死においやられた人間は4000万以上に達すると閑人氏は指摘する。にわかには信じがたい気がするが、他の著者なども参照すると真実に近いようだ。ソ連崩壊や毛沢東の死去後、封印されていた情報が相当程度あきらかになってきており、信憑性は強い。

 毛沢東はどうやら、ヒトラーやスターリンの大虐殺に匹敵する独裁者であるといっても間違いではない。
 こんな毛沢東をひところ日本の多くの知識人が絶賛していた。毛沢東の「真実」が次第に明らかになってきた今、彼等はどんな思いを抱いているのだろうか。3,40年前の毛沢東主義礼賛者は一様に沈黙を守っているが、意見を聞きたいものだ。

 こういう本を読むと、あらためて権力のもつ魔力について思いがいく。権力は人間を狂わせるものだ。日本の首相も、歴代首相のなかではぬきんでて権力を強めているが、危ないなと、思う。権力の美酒は人を容易に狂気に走らせる。

 「ワイルドスワン」の著者、ユン・チュアンの新著「マオ・誰も知らなかった毛沢東」上下巻が講談社より出たのでさっそく買う。10年以上にわたり数百人とのインタビューを通して出来上がったとのことで、力作ノンフィクションである。

 今の中国ではまだ毛沢東の肖像が飾られているし、毛沢東の亡霊がいたる所に徘徊している。毛沢東の亡霊と完全に決別したときが、中国に民主主義の芽が出るときだろう。2008年の北京オリンピックまでは現体制でなんとかもつかもしれないが、その後、中国は大混乱に陥る可能性が強い。当然、日本にも深刻な余波がおよぶに違いない。
by katorishu | 2005-11-24 00:36