コラム


by katorishu
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脚本家等フリーの諸氏との雑談

 12月16日(金)
 六本木での放送作家協会理事会のあと、近くの喫茶店で理事の劇作家T氏ほかの諸氏と雑談した。窓の向こうには、六本木ヒルズの建物が屹立している。
 毎月のようにこの界隈にくるが、中へ入ったことがない。その場にいた脚本家、放送作家諸氏も、いっていないという。
「我々貧乏人には無縁の建物だね」と話し合ったことだった。例の株の誤発注事件で、24歳の男が4億だか5億だか稼いだという。彼は28億で、ジェイコム株を買いまくった、その結果だという。

 24歳の個人が28億も出して株を買うというのも、ぼくなど唖然とする。「青二才」がどこで、どう儲けた知らないが、「ギャンブル経済」もいいところである。
 都内の一部では不動産バブルが起こっているというが、こういう「突然変異の怪物」のようなものは必ず崩壊する。

 一部の個人が突出した金持ちになる世界は古来ろくでもない社会である。バブル景気にわく中国もしかり。
 ロシアにもソ連崩壊のどさくさにまぎれ巨額の資金を手にした若者がいるが、一方にはかつかつの生活をしている中高年者がいる。
 地味にこつこと働き続けて、ささやなな老後を送ろうとした層を、ソ連崩壊後のハイパーインフレが直撃した。ぼくはソ連崩壊一年前と崩壊直後のロシアに行っているので、その混乱ぶりがよくわかる。

 T氏は劇団を主宰しているが、経営は苦しく、公演の度に赤字がかさみ、青息吐息とのこと。「ぼくと同じ年齢の、公務員や大企業に勤めていた人たちは定年を迎え結構優雅な生活をしているのに、 こっちはまだあくせくしなければならない」と自嘲気味に話していた。
 フリーで、どこにも縛られず、好きなことをやってきたのだから、当然、という意見もあるだろうが、ぼくの知る限り、定年まで「休まず遅れず働かず」でじっと組織にへばりついた人たちに比べ、フリーランスでやってきた人のほうが、気概もエネルギーも能力もある人が多い。
 
 組織の中にも優秀な人はいるが、圧倒的多数は、「可もなく不可もなく」、出る杭を打たれないように「杭」として出ることもせず、ひたすら右を見て左を見て、みんな一緒という輪の中で生きてきた。そうして定年を迎えた人が、経済的には今「結構な生活」をしているようだ。

 某日、某テレビ局を定年退職した夫婦と話すことがあったが、定年後の生活に備えパリに8000万のマンションを買ったという。もちろん、東京の家も残して、パリと東京を往復して「優雅」な生活をするのだろう。「結構なことですね」といっておいたが。
 団塊の世代よりすこし上の「大組織」を定年退職した人たちは、確かに今、恵まれた人が多いようだ。しかし、これから10年、20年後の生活はどうなるかわからない。
 インフレが進めば、年金など大した役に立たない。経済ばかりでなく、心の面でも、「優雅に」「遊んで」暮らそうと思っている層が、この先、安泰で優雅な生活を満喫できるという保証はない。

 ボランティア活動でもいいから、社会とかかわり、少しでも余裕がある人は、社会になんらかの形で「お返し」をして欲しいものだ。若年層によりかかって、安逸をむさぼろうとしたら、いずれそのしっぺ返しを受けるに違いない。
 死ぬまで「働ける」人や「働ける場所」をもっている人は幸いである。
 もっとも、いやでいやでたまらない仕事ならしょうがないが。ぼくからいえば、死ぬまで続けたいと思えないような仕事を、よくやってきたな、と思う。いくら生活の安定のためとはいえ、それでは動物園の檻の中の動物である。野生を失いたくないものである。
by katorishu | 2005-12-17 00:04