コラム


by katorishu
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松澤病院を見つつ大宅文庫へ

 1月5日(木)
 午前中に起きることはできなかったが、なんとか飛び起き、大宅文庫にいき調べものをすることができた。京王線に乗って八幡山駅でおり、徒歩10数分。左手に都内一の精神病院、松澤病院を見てあるく。院内には武蔵野の面影を残す大きな欅類がしげっており、独特の雰囲気をつくりだしている。

 清瀬のサナトリウムにいったことはないが、なんとなくサナトリウムを連想してしまう。こういう時代なので、この病院を訪れる人も急増しているのではないか。
 幾多の有名人がここに入っていた。東京裁判のとき被告席で東條英機の頭をうしろからぽかりと殴った大川周明もたしかここにはいっていたはず。天皇直系を自称していた熊沢天皇もここの住人であったと記憶している。

 大川周明は「右翼の国家主義者」として知られているが、回教の研究者としても著名で、いぜん著書を読んだことがある「回教概論」であったか。欧米列強のキリスト教文明に対抗する軸として、回教、つまりイスラム教をもちだし、独特の論理を展開していて、なかなか面白かった。
 仮に生きていたら、ブッシュ政権のイラク攻撃について、どんな反応を示したであろうか……。空想はふくらむ。

 まだ「仕事始め」で休みの人も多いのか、大宅文庫内はいつもよりすいていた。古い「中央公論」やいまはない「日本」など、昭和30年、40年代の雑誌など20冊をかりだし、コピーもたのむ。入館代のほかコピー代が1枚60円かかるので、結局、1万円をこえる「資料代」になった。
 それでもまだ調べたいことの、半分にも満たない。今月中に、また訪れる必要がある。
 大宅文庫はノンフィクション作家の「鏡」ともいえる大宅壮一の最大の功績で、ここのお世話になっているノンフィクション作家やフリーライター、週刊誌、雑誌記者などは多いはず。
 
 帰路、八幡山の駅のプラットホームに立ったときの寒かったこと。高架になっており北風を遮蔽するフェンスなどがなくふきっさらしなので、寒風が身にしみる。都内だと駅周辺には高いビルがあるので、風もさえぎられるのだが、このへんは「世田谷の土田舎」なので、高い建物もない。

 以前、ぼくの学生時代、この界隈は畑地だった。武蔵野の雑木林も残っていたのだが、今では精神科専門の松澤病院の中だけになってしまった。 なんだか、現代日本を象徴する光景である、と駅のプラットホームで寒さに身を縮めながら思ったことだった。

 新宿駅で山手線に乗り換えるとき、西口の雑踏のなかで、劇作家の小松幹生氏にばったり出会う。「やあやあ」というだけで別れたが、駅の雑踏のなかで知り合いと鉢合わせすることなど、最近では珍しい。個性ある風貌の小松氏は、先月、三軒茶屋の小劇場で短編4編の戯曲をかき、独特の世界をつくっている。

 昔であったら、寒いので、ちょっとそこらで一杯……などという声も出るのだろうが、その元気はない。そういえば、新宿の飲み屋にほとんど足を運ばなくなった。
 ゴールデン街では恐らく、香取は病気かそれとも慢性金欠病を患っているのでは……といわれているのではないか。いや、噂にあがることもないのかもしれない。 年末、某映画評論家から、ゴールデン街にいったら、ぼくの話がでていたとメールをいただいたが。盛り場は遠くなりにけり、墓場は近くになりにけり、か。
by katorishu | 2006-01-06 00:56