コラム


by katorishu
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ウエッブ小説の試み

 10月1日(金)。
 秋晴れの好天。珍しく早く起きて、午前中、数時間、執筆をし、午後、横浜へ。ホームページに掲載予定の「ウエッブ小説」の取材である。20枚から30枚ほどの短編に写真を多用し、「読んで、見て」楽しめる小説ができないか、ホームページをつくったときから考えていた。
 渋谷やら東横線の直通で元町・中華街まで30数分でいけるようになったので、それでいく。横浜には過去、何度もいっているものの、ここ5,6年はご無沙汰している。
 元町の商店街をぶらぶら歩いたが、記憶に残っていた町並みとかなりちがっていた。町そのものが変わったのか、ぼくの記憶が変形しているのか。最近、どこの町にもあるチェーン店が数多く出店し、「町の個性」が希薄になった印象は否めない。
 写真を担当してくださるYさんと石川町駅前で午後2時に待ち合わせたが、Yさんも以前の元町とはかなりかわってきていると話していた。横浜に詳しいYさんの案内で、元町の坂上にある外人墓地は洋館などをいくつか見てあるいた。「港の見える丘公園」に40年近く前、いったことがあるだけで、この界隈に足を運ぶのはじめてである。小説の構想はなんにも浮かんでいないが、あたりをぶらぶら歩くうちに、なにかちょっとした発見をし、そこから発想できればいいと思い、メモも写真もとらず、ただ見て歩く。Yさんには、ここを、この角度から撮ってほしいと頼んだりしたが。
 
 山手から中華街を歩き、軽く食事をして、さらに伊勢佐木町をぶらついた。10月1日は中国の国慶節、つまり建国記念日なので、獅子舞に似たものがいくつもでて、門付けのように料理店などをまわっていた。太鼓とシンバル、そして爆竹の音が響き、いかにも中華街らしい雰囲気をだしていた。これはなにかに使えるかもしれないと思った。
 ただ、全体として、昔のぼくの記憶に残っている「異国情緒」のある「横浜」とはちがっていた。横浜に限らず日本全体にいえることで、町や村から特色や情緒が薄れる一方だ。どこへいっても金太郎飴のように、似たような家や店が並び、似たような装いの人々が、似たような会話をしながら行き来している。
 久しぶりに訪れた主人公が、こういう画一さに、やや幻滅を覚えるところから、物語がはじまる……というのでは、味気なさ過ぎるか。帰路の電車の中でいろいろ考えたが、まだ発酵には時間がかかるようだ。

 いずれにしても、風景の中から物語りを発想し、文体もちょっと変えた「実験作」としたい気持ちがある。どこからか注文があって書くのではないので、自由に発想するつもりだが、結局、試行錯誤の上、従来の文体に落ち着くかもしれない。一度、身につけてしまった「文体」は体の癖と同じで、なかなか改めるのはむずかしい。癖そのものが「個性」にも通じるわけで、果たしてこの試み、うまくいくかどうか……。
 うまくいけば、横浜を舞台に2,3編書き、ついで鎌倉を数編書き、再び東海道をもどって、鶴見、そうして品川、東京と……書くことを考えている。以前、山手線の10駅を舞台に『山手線平成綺譚』(東京創元社)と、地下鉄銀座線の12駅の周辺を舞台に『いつか見た人』(双葉社)という短編集をだしたが、その延長線上の作と考えている。
 ちがうのはまずホームページ上に発表することである。
「プロの作家が無料で公開していいのですか」とある人からメールをいただいたが、脚本などとちがって小説は「活字」で記して公開して、読者が読んでくれれば、出来、不出来はともかく、それで作品としては完成する。
 編集者かそれに類する方の目にとまり、これはもっと大勢の人に読ませるに値する作品と判断していただけば、本として新たに日の目を見る可能性もないわけではない。
 
 まず自分が書きたいものを書きたいように書く。それを「買って」くれるところがあれば、「売る」。そういう書き方をしている作家も現にいるようだ。古いところから例をひけば、永井荷風も一頃は、まず自分の書きたい素材を作品として仕上げ、それを「私家版」として発行して知人などに配布することが多かったという。それに目をとめた出版社があらためて本としてだす。『墨東綺譚』などそうやって世に出たものである。
 それが創作家としては、理想の形かもしれず、五木寛之氏が以前、夕刊紙にそんな意味のことを書いていた。もっとも、「理想」は常に「現実」に敗れることが多いので、名の売れた作家でも、なかなかままならないもののようだ。まして……おや、である。
 いろいろ他にやらなければならないことが多く、試行錯誤の時間も必要なので、今月中に完成することはむずかしそうだが、なんとか11月に1編、、12月に1編は仕上げて、まずはホームページ上に公開したい。納得がいけば、月に1編は必ず書くよう努力したい。
by katorishu | 2004-10-02 01:50