コラム


by katorishu
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インテリジェンスの貧困、

 2月12日(日)
 品川図書館で月刊誌『世界』を久々に手にとった。月刊誌では『現代』を毎月買って読んでいるほか「右」といわれている『諸君』も愛読している。そのほかは『論座』をときどき読む程度か。
 いずれも週刊誌などにはない、かなり深く突っ込んだ記事や論文があって面白い。単行本だと、少々「時期遅れ」になってしまうものもあるので、雑誌の論文は貴重だ。

 本日目を通した中では佐藤優氏の「民族の罠」という連載論文が興味深かった。
 佐藤氏は外務省のロシア関連のエキスパート(諜報マン)であったが、鈴木宗男議員の逮捕に連座して逮捕され、現在、外務省を「休職中」の身である。
 恐らく現在の外務省が続く限り復職はむずかしいかもしれないが、有能な諜報マンを失ったことは日本の外交にとって大きなマイナスとなって響いてくるだろう。

 あの逮捕は「国策捜査」の趣があり、宗男氏は徹底抗戦するようで、最近も外務省内部の不祥事を公にしている。
「水清くして魚住まず」という言葉があるが、政治や外交の世界では「清い」ことが必ずしも国民の利益になりはしない。

 小泉総理は一見「清潔」そうであるが、政治や外交の世界ではこれがくせ者なのである。
「清潔」とか「純粋」といったものは、一見良さそうに見える。個人のレベルでは結構なことかもしれないが、危険をともなうこともある。
 ヒトラーは「清潔」を好んだ。「純粋」「純血」を強く好むあまり、「不潔」や「純血でない」人間を排除し、抹殺する路を選んでしまった。
 戦前、日本を地獄の底に突き落とした、軍部の若手将校たちも「清潔」で「純粋」であった。特に権力をもつ者が、「清潔」とか「純粋」を言い出すと、怖い。

 佐藤優氏は、上海総領事館員自殺事件をとりあげ、中国側の対応を批判すると同時に、外務省の対応をも批判している。中国公安当局が「女性問題」をネタに外務省の電信官に情報提供を強要し、それに耐えきれなくなった電信官が自殺した事件である。
 昨年末「週刊文春」が報じたことで、公になった。この報道に中国当局は自殺は個人的問題で中国公安とは関係がないと突っぱねた。

 この問題について、佐藤氏はこう記す。
「現行の国際関係は平等の主権国家の見解、この場合は、日本と中国の見解が完全に対立する場合は、どちらかが明白に客観的事実に反している事例以外は、筆者の立場設定が決定的になる。在上海総領事館員自殺事件で筆者は日本国家の側に自らを置いているだけのことだ。この立ち位置が明確にならないとインテリジェンスというゲームはできないのである」 

 さらに佐藤氏は、国家主権を侵害する非合法活動はあってはならないことだが、国際政治の現実では「あってはならないこと」が起きてしまうことがあるとし、
「インテリジェンスの世界はすべてが応用問題で”あってはならないこと”の処理で当該国の情報面での成熟度が測られる」
 と記す。
 佐藤氏が憂慮するのは、中国側が、
「この件で日本政府の対中国政策が転換したとのシグナル」
 と誤読してしまうことだという。

 相手国の意図の「誤読」から「誤解」がうまれ、更に「曲解」へと進むと、必要以上に外交関係がこじれ、中傷誹謗合戦になってしまう。
 現在、日中や米イラン関係などが、この段階にきているようで、極めて危ない。

 インテリジェンスや諜報というと、なにやら「悪」のイメージが強いが、お互いが最悪の関係にならないよう、相手側の意図や本心を読むためにも、重要である。
 戦後の日本はアメリカに頼りっぱなしであったので、この面では世界の先進国の中で最低レベルにある。
 無益な衝突、摩擦をさける意味でも、インテリジェンスの充実が望まれる。

 元TBSの記者の書いた『小泉内閣と「インテリジェンス・クライシス』も興味深い内容だった。北朝鮮の拉致問題もふくめ、日本政府の情報管理のいい加減さを鋭く指摘している。
 興味のある方は雑誌を読んでみてください。月刊誌にはこんなにも豊富な内容がこめられているのか、と認識を改めるのではないかと思います。
by katorishu | 2006-02-13 00:06