コラム


by katorishu
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個人情報保護法の危ない側面

3月11日(土)
■足立区学びぴあで脚本アーカイブズの編集会議。文化庁から助成をもらって「脚本アーカイブズ」の調査研究を行ってきたので、その報告書を出す必要がある。
 メディア変換、つまりデジタル化について、いろいろと難しい問題があり、議論は熱をおびる。結局、5時間の長丁場。
 デジタル化の問題は根が深い。以前、このブログでも触れたが、なにもかもデジタル化……という傾向に対して、専門家の間では危惧の声が強く出始めている。
 
■個人情報保護法というのを、ご存じのことと思う。その名の通り「個人の情報」を保護するという名目で2005年4月に施行された。
 法案が明らかになったとき、報道の自由を侵す恐れがあり、「こんな法律が通ったら、政治家のスキャンダルを報じることもできなくなり、週刊誌などの発行も危ぶまれる」と報道関係者から強い懸念の声が出た。作家の城山三郎氏は「戦前の治安維持法に匹敵する悪法」だと指摘し、この法律を押し通そうとする小泉首相に抗議をした。
 小泉首相は以前、城山三郎氏の書く小説に傾倒しており、わざわざ城山氏と食事をし意見を聞くようなこともしていた。
 
 しかし、小泉首相は城山氏の諫言に耳を傾けようとせず、数の力で押し切ってしまった。「報道関係者は適用除外する」という付帯条件をつけたものの、こんな条件はいつはずされるかわからない。政府は言論統制の武器を「隠し持つ」ことに成功したといっていいかもしれない。
 
 施行されて1年が経過したので、見直しが行われた。これまで、情報漏えいの罰則の対象を事業者に限定していたが、罰則を科せられない社員らによる営利目的の情報流出事件が続発したことを受け、法改正の必要があると判断したとのことである。
 自民党がまとめた改正案によると、個人情報を漏えいした民間企業の社員らに対し、懲役1年以下または罰金50万円以下の罰則規定を新設。報道機関や政党などへの情報提供は原則として処罰の対象外と明記したとのことであるが。

 報道機関などに対する措置はあくまで原則にすぎず、「公序良俗」を守るためなどと称して、いつ「拡大解釈」をしてくるかわからない。
 この法律の施行により、警察の捜査をはじめ世論調査なども支障をきたしはじめているということだ。
 捜査員が捜査情報をとろうとすると「個人情報の保護」を楯に、病院や宿泊設備、会社などから拒絶されることが多くなったという。警察の検挙率の低下の一因となっているのではないか。

■世論調査も、市民の非協力や住民基本台帳の閲覧制限の影響でピンチに立たされているという。この法律のおかげで、回収率ががくんと下がっているらしい。家族社会学の稲葉昭英助教授(家族社会学)によると、今後、調査対象を適切に抽出できるかどうか心もとなく、世論調査が成り立たなくなる可能性もある。
 対象の抽出にはこれまで市町村の住民基本台帳の閲覧を利用してきたのだが、自治体が独自に閲覧を制限する流れが進んでいるのだという。(2006年2月14日14時30分 読売新聞)

 世論の動向を見る「正しいデータ」がないと、憶測、あて推量が増え、政治の場でも世論を反映させた政策の実施がむずかしくなる。
 要するに権力者の恣意性が強まるということだ。自分のやりたい方向にそった「有識者」をあつめて諮問委員会等をつくり、そこで出された「結論」が世論だとして、新しい政策を打ち出していく。そんなことがますます顕著になっていくかもしれない。

 もちろん個人の情報は保護されるべきなのだが、自分の情報が使われることを過剰に警戒する傾向が強まると、かえって自分たちのクビをしめることになるかもしれないのである。「保護」されているとはいえ、官庁の役人などには「筒抜け」であり、逆に考えれば、一部の人間が「情報を独占」することでもある。
 一部の人間が個人情報を独占する国家の典型が旧ソ連や北朝鮮などの「言論統制国家」である。共産党一党独裁の中国もそうである。
 角を矯めて牛を殺すようなことがなければ幸いである。
by katorishu | 2006-03-12 03:05