コラム


by katorishu
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

国家の品格とユーモア

 4月1日(土)
■昨日は足立区学びピアで、足立区役所の職員と脚本アーカイブズ委員との間で合同の会議。脚本アーカイブズの実現にむけて、どう進めていくか、問題点などを話し合う。
 予算がからむことなので、行政の財政逼迫なおり、そう簡単ではない。巷間つたえられているように足立区は都内で「最貧の区」であり、格差社会がもっとも顕著にあらわれている区だという。他の多くの区も大同小異であると思うのだが。

■「朝まで生テレビ」でも格差社会をテーマにしていたが、日本の美点であったものが、この10年ほどでがらがら崩れ去っている。往復の電車内で今ベストセラーの「国家の品格」(藤原正彦)を半分近く読んだ。なかなか示唆に富む意見があり、面白い。アングロサクソンによる「近代合理主義精神」が今や限界にきているとして、「論理」万能の社会を鋭く批判している。

■藤原氏が数学者で論理を仕事にしている人なので、一層興味深い。氏は「自由」と「平等」の概念は欧米が作り上げたフィクションであり、日本にはそぐわないとし、日本は「情緒」と「形」を重視する文化を大事にすべきであり、良い意味の「武士道精神」の復活を期待している。
 武士道というと封建道徳と直結するもので、「悪いもの」と戦後教育されてきたが、藤原氏はそれは誤解であり、間違っていると指摘し、武士道の対極にあるものが今の社会に横行している市場原理主義であると記す。武士道の要諦は、「節度を尊び」「弱いものいじめ」をしないことで、それが市場原理主義と決定的に違うところだという。

■なるほどと思う論にあふれている。武士道精神を云々しているので、「右翼」と見る人がいるかもしれないが、違う。かなりユーモア感覚のある人だ。最近、右にせよ左にせよ、中間派にせよ、ユーモアのない人には閉口する。
 ストレスの多い社会である。ユーモアという潤滑油をつかわずに、議論をしたりすると、一層ストレスが増す。ユーモアのない人は「品のない人」といっていいかもしれない。ウイットといってもよい。それは知的なものにも通じることで、悪知恵ももった、ある種「悪魔」のような存在である人間の中の、良質な部分を代表するものである。
 断っておきますが、テレビで大流行の「お笑い」とユーモアとは違います。あれは下品というものです。テレビが日本人を下品にした犯人に一人であることは間違いない。
 いずれにしても「国家の品格」は、異論反論したい部分があるにせよ、ぼくにとっては大変示唆に富む書物である(後半を読んでいないので半分の評価であるが)。

■そういえば、以前、藤原氏から葉書をいただいた記憶がある。確かぼくの著書を送ったことに対する返事であった。藤原氏の出身高校の都立西高の先輩が、ぼくのかつての職場の先輩であり、彼のところに送るといいとアドバイスを受けたのだった。二人はサッカー部の先輩、後輩であったようだ。その葉書も、整理が悪いので、どこかにまぎれてしまった。これで資料を駆使するノンフィクションを書いているのだから、まったく綱渡りものである。
by katorishu | 2006-04-01 23:51