コラム


by katorishu
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天国と地獄

 4月16日(日)
■北区の赤羽会館で喜歌劇『天国と地獄』を見る。オッフェンバッハ作曲で飯村孝夫氏の訳詞・台本。飯村氏は友人で二期会のオペラ歌手兼演出家。知り合いのオペラ歌手、平良交一さんや神谷満実子さん、役者の松岡みどりさん等が出演するので見にいった。
 観客の大半は地元赤羽の人なので、「赤羽向き」に台詞などをアレンジして、サービス精神を発揮していた。満員の盛況でそれなりに楽しめた。

■合唱団などは素人でオーケストラも「少ないかな」と感じられる人数。5000円と3500円の入場料ではこれが精一杯かもしれない。すべてをプロで固め本格的なオペラをやろうとしたら、入場料を1万から2万円にしないと赤字である。
  もっとも赤羽会館での公演はほとんど赤字であると飯村氏は話していたが。
「地元の赤羽で普段は八百屋をやっていたりラーメン屋をやっていたりするおじさん、おばさんが年に一回オペラを見て楽しかったといえるようなものにしたい」と以前、飯村氏は話していた。
赤羽生まれの赤羽育ちの飯村氏のもくろみは成功していたと思う。毎年1回、赤羽会館で公演しており、すでに恒例となっている。渋谷のシアター・コクーンや上野の芸術劇場で演じられるオペラの客のように着飾った人はほとんどいなかった。戦前浅草ではやった庶民的な「浅草オペラ」に通じるものがあるのかもしれない。

■オペラは久しぶりに見た。本格的なオペラといえば、東京オペラシティで見た韓国のオペラ以来ではないのか。韓国オペラには、ぼくの見にいった前の日、小泉首相が見にきていたという。オペラ協会に関係している知り合いが、確か7000円ぐらいに割り引いてくれたので、見にいったと記憶している。韓国オペラは出演者の歌唱力はさすがと思わせるものであったが、2万円、3万円までだして見にいく気はしない。
 それだけのカネがあれば、映画を20本見る。幸か不幸かシルバー料金で見られるので。

■芝居にしても安くて3000円。4,5000円というのが多いようだ。これだと余り気楽に見にいけない層が圧倒的に多いのではないか。一部富裕層は一人500万のクルージングにいったり、海外のゴルフ・グルメツアーなどにいったりしているのかどうか。更に欲張って資産をふやそうとパソコンで株情報を睨んだりしているのだろうか。
 ニューヨークタイムスにも、日本の格差社会のことが記事になっていて「日本の良さであった中流層が消えつつある」と報じている。

■小泉・竹中「富裕層厚遇」政策によって、格差がますます開いているようだ。日本の伝統文化の復活を……とのたまわっている政権党が、足下で日本の良き伝統であった「平等社会」を崩そうとしている。「努力したものが報われる社会」をと竹中氏らは絶叫しているが、「報われる」ことをすべてカネに換算してしまうこと自体が、日本の伝統文化ではない。「守銭奴」を優遇するアメリカ型の社会は日本の風土に似合わない。
 「あの人は偉い」「立派だ」と評価されることで、十分「報われる」ひとがかつては多かった。貧乏でも一目おかれ、尊敬されている人が町内には必ず一人や二人はいた。そんな価値の多様化こそが、「豊かな社会」だと思うのだが。

■昔の金持ちを知っているが、普段は実に質素な生活をしていた。八王子で確か森万という間口一間半ほどの小さな鏡屋を経営している人だった。祖父とは明治以来の知り合いなので、戦後も我が家をよく訪れていた。歌手のユーミンの実家の「荒井呉服店」の並びにあった。
 その鏡屋はどうやった金持ちになったか知らないが、祖父はあの人は八王子でも有数の金持ちだと話していた。着ているものも粗末といっていい物で、「成金」のイメージから遠かった。
 今思うと、その人は金持ちであることを「遠慮」していたのかもしれない。あるいは、庶民の嫉妬心をかわすために、敢えてそうしていたのか……。

■そういえば「弊衣破帽」などという言葉も死語になってしまった。「やせ我慢」も死語。「清貧」も死語に近いか。言葉がだんだん死んでいき、画一的な言語表現になっていく。それを「文化の衰退」という。
by katorishu | 2006-04-17 01:21