コラム


by katorishu
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創造性と脳 

4月17日(月)
■「中央公論」06年5月号に、若手の脳科学者、茂木健一郎氏の面白いコラムが載っていた。『脳科学で解く「若」と「老」』とタイトルされたもので、これまでの脳についての「常識」をちょっとひっくり返すようなものだった。
 茂木氏は現代社会において最も高く評価される人間の能力は「創造性」と「コミュニケーション力」であり、現在までのところ、この二つの点においては人間の脳に匹敵するコンピューターは開発される見通しがないという。

■世間では老人よりも若者のほうが「創造性」が高いという思いこみがあるが、脳の働きからすると、疑問がある。むしろ、条件さえそろえば、高齢者でも高い創造性を維持することは可能だとする。
 茂木氏によれば、創造性を支える脳の仕組みは現在じょじょに解明されつつあり、それによると、創造性は脳の記憶のシステムと大いに関連している。脳の側頭葉に蓄積された過去の記憶は、ずっと編集され続け、その過程で、さまざまな「意味」が見いだされていく。

■創造性とは、そのような編集過程で、経験で蓄積された要素の間に新たな組み合わせや結びつきが生じる過程である、という。
 従って、創造性の程度は、側頭葉に蓄えられた「体験」と、前頭葉によって創られる「意欲」の掛け算で決まる。経験なしに創造性はうまれないので、年齢を積み重ねれば重ねるほど体験の重みも増す。
 高齢になると創造性が落ちると世間でいわれているのは、「意欲」が低下するからである。
 だから、「意欲」のある「高齢者」は最強ということになりうるのだという。なるほどと思った。

■高齢者には「朗報」というべきだろう。「創造性」も「コミュニュケーション能力」も高い「スーパー高齢者」になることは、十分可能であり、とりわけITの進展がそれを促すという。記憶力については若者が優れ高齢者の能力は衰えるが、インターネットの出現により、衰えを補える。

■想像力の根底にあるのは「記憶」であると、ぼくはシナリオ塾などで生徒に強調してきたが、脳科学的に裏付けられるようだ。
 当人の脳に記憶された経験を、いかに有効利用するかが大事である。つまり、その人の「過去」、生きてきた道筋。現実の「体験」だけではない、読書したり、映画演劇を見たりの「体験」も、記憶に定着される「体験」である。
 自己の体験をどう引き出し、組み合わせていくかで、作品の良し悪しが決まる、と話してきた。

■茂木氏は新進気鋭の脳科学者だが、氏のコラムを読んで納得がいった。長寿社会を生きる多くの人たちには、心強いのではないのか。
 今後、5年、10年で、社会は大きく変わるはずですが、「想像力」と「コミュニケーション力」は保持したいもの。「想像力」といっても、別に「創作家」になるということではなく、「生き生きと個性を発揮して生きる」ことが、すでに「想像力」のある生活である、と考えるべきでしょう。最近は、どうも「コミュニケーション力」が全体的に落ちて、「ジコチュウ」というのか、唯我独尊の人が多いようですが、他者との豊かなコミュニュケーション能力がないと、はた迷惑な存在でしかない。

■年齢に関係なく、豊かなコミュニュケーション能力は、豊かに生きるためには必要です。豊かって、べつに「金持ち」とは関係ありません。最近は、「豊かな生活」というと、イコール「金持ち」と解する人が多いようですが、そういう発想しか出来ない人は、すでに「貧相な生き方」をしていると、ぼくなどは思ってしまいます。もっとも、最低限の衣食住が確保された上でのことですが、どうも最近は、その条件を得るだけで疲れきってしまったり、努力してもそれを達成できない人が多いようです。政治の貧困が原因のひとつである、といえるかと思います。
by katorishu | 2006-04-18 04:07