コラム


by katorishu
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欲望全開の文化と戦後日本

 4月30日(日)
■毎日新聞ウエブ版によると、北京市環境保護局は29日、黄砂の影響による大気汚染が深刻化し、今年1月から同日までの北京の晴天日数が昨年の同じ期間と比べて16日少ない60日だったと発表したという。
 モンゴルと中国内モンゴル自治区の降水量が少ないことが原因で黄砂被害が多発、これまでに7回被害に見舞われて「重度の大気汚染日」は17日を数えた。

■風下にある日本としては気がかりな現象である。中国の人口はすでに13億人。朝鮮戦争のころは確か6億前後であったから、50年ちょっとで倍になったということだ。「一人っ子」政策などを実施しても、この数字である。
 文化大革命のとき、中国のある人口学者が、このままでは中国は人口過剰になるので対策をうつべきだと提言したが、毛沢東はこれを不快としてその学者を「反人民的」だとして逮捕監禁してしまった。「人海戦術」などで、人民など将棋の駒同然にあつかい、1億や2億死んでも、まだ3億、4億の人間がいる、と豪語した毛沢東らしいやり方だ。

■「あのとき、効果的な対策をたてていたら」と残念がっている、心ある中国の人もいる。中国に限らず、今後地球上の最大の問題は「過剰な人口」であろう。5,60年前、世界の人口は26億人ほどだった。それが現在は60億。医療技術の向上、衛生観念の普及で幼児の死亡が激減したことが「長寿」の原因で、そのこと自体は結構なことなのだが。
 地上で養える人口には限度がある。

■すでに限度を超えてしまっているのではないか。中国の環境悪化の報告などを聞くと、そう思ってしまう。「経済発展」にともない、中国でも車が普及し食生活も急速に先進国化している。(農村部は違うが)。当然、莫大なエネルギーが消費され、環境は悪化する。
 中国では深刻な水不足に見舞われているというし、すでに食糧輸入国になっている。日本は現在、中国から大変な量の食糧を輸入しているが、いつまでこれが続くのか。

■以前、日本人がエビを食べれば食べるほど、東南アジアのマングローブが減っていくという本を読んだことがある。一見、エビとマングローブと関係がないように思われるが、じつは深いつながりがあるのである。東南アジアの農民が収入をあげようと、マングローブの森を壊してエビの養殖地にするため、マングローブが減っていくのである。
 エビの養殖地を見た人はおわかりのように、海沿いにあるので何年か養殖をつづけると塩分がたまり養殖ができなくなる。農民はその土地を放棄し、新しくマングローブを壊して、別の養殖地をつくる。跡地は塩のまじった土壌なので、マングローブはおろか植物が育たない荒れ地になる。荒涼とした荒れ地がタイやマレーシアはインドネシアなどに続々と生まれている。観光旅行のコースに入っていないので、多くの日本人は知らないが、ちょっとコースをはずれると、そんな惨状を見ることができる。

■「現地の農民に現金が落ちるのだし、現地経済に貢献しているではないか」という意見もあるが、程度問題である。日本には伝統的に「ほどほど」という文化があったのだが、戦後、アメリカの占領政策のもと「欲望全開」の文化が、「ほどほど」の文化をなぎたおし、今や、大手をふって「占領」している。

■戦後日本は、消費者の欲望を全開させ、過剰に飲み、過剰に食い、過剰に乗り……等々、過剰な消費をさせることによって成り立つ社会、文化をつくりあげてしまった。アメリカをモデルにしたことはいうまでもない。日本人が望んでそうしたというより、アメリカが日本を改造しようとして戦略的にそうしたのである。
 アメリカは占領下の日本で「ウオー・ギルティ・プログラム」をはじめ実にさまざまな改造計画を実施した。女性にも選挙権を与えるなど、良い計画も、もちろん実施したが、とにかく「戦争を起こした過去の日本」はすべて「悪」であるとして、日本人に深い「罪の意識」を植え付けことが根幹であった。そうして、アメリカの民主主義こそ最高……という意識を、教育の場でも実施した。かくてアメリカ製の「戦後民主主義」が根付いたのである。

■アメリカはイラクでも同じことをやろうとしたのだが、イスラム教の根幹にふれることでもあったので、イラク人はこの戦略にのらず、失敗した。
 それに比べ、日本である。ぼくもその一員なのだが、日本人ほど、アメリカの戦略、計画にうまくのった(のせられた)民族も、歴史上、珍しいのではないか。
 ぼくは別に「国粋主義者」でもなんでもないが、この傾向が小泉内閣になってから、一層進展していることは否定できない。その傾向を依然として多くの日本人が支持していることに、ぼくは驚くと同時に強い危惧をもっている。
 連休を遊びまわるのもいいが、戦後のアメリカの占領政策がどのように行われたかについて書かれた本を、読むようなこともして欲しいものだ。
 テレビをぼんやり見ていたのでは、まったくわからないことです。

■例えば、「言論の自由」をうたうアメリカが、占領下の日本で組織的に新聞、雑誌、ラジオなどの検閲を行うとともに私信なども検閲していた事実を、今の日本人のどのくらいの層が知っているだろうか。アメリカは、日本で共産国の秘密警察のように組織的な検閲を行っていた事実を、日本人に知らせない政策をとっていた。

■アメリカの良さはもちろんあるが、口では「言論の自由」「民主主義」などといいながら、影ではそういうことを平気で行う国であることも、日本人として知っておいたほうがいい。「大国」とか「強国」などという国は、大同小異で、自分のやりたいことをやり、弱い部分に押しつけるのである。
 国内経済でも、同じことだ。銀行が空前の収益をあげたと先日の新聞に出ていたが、預金の利率を政策で低く抑えたため、本来、国民にわたるべきお金を「合法的に」すいあげた結果である。そうして「競争原理主義者」は「景気が回復」とかいって、失政を認めようとしない。
 『閉ざされた言語空間』(江藤淳著、文春文庫)など読むといいですよ。アメリカに対する見方が必ず変わります。ぼく自身、目から鱗の落ちる思いがしたものだ。
by katorishu | 2006-05-01 02:43