コラム


by katorishu
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

東京裁判60周年

 5月2日(火)
■東京は昨日の真夏のような暑さとうってかわって冷たい雨の一日。天気がよければ盛り場にいって映画でも見て……と思ったが、やめにして近くの駅周辺まで散歩。4時間ばかりコーヒー店で執筆。出版のあてもない「大長編」の推敲で終わってしまった。

■朝日新聞が東京裁判開廷60周年の大特集をやっていた。戦後の日本の形を決めた裁判であったのに、世論調査によると、この裁判のことを知らない人が7割だという。20代では9割が知らないという。
 学校ではまったく教えないのですね。「新しい教科書をつくる会」などに関係している人は、この裁判は不当で「自虐史観」の根源と主張しているので、多くは裁判の内容まで知っていると思うが。こんな大事な裁判を知らないとは、由々しいことである。

■この裁判、勝者が敗者を裁いた面は否定できず、「平和に対する罪」など「事後法」で裁かれたところなど、おかしい点もいろいろある。しかし、戦後日本はこの裁判を受け入れることによって「国際社会」に復帰した、という経緯がある。そもそもあの戦争を起こしたことの責任、罪を日本人が問わなかった。占領軍に「やってもらった」のである。
 朝鮮戦争の特需などによって、戦後経済復興したので、いろいろな矛盾点は帳消しにして、ずっとやってきた。「冷戦」の終結によって国際情勢がかわってしまい、世界は新しい枠組みをつくりだせず、混迷が続いている。

■今やアメリカが軍事経済などで突出した強国になり、誰もたてつけない状況になっている。
依然として日本はアメリカの「属国」といっていいかと思うが、今後、いつまでこの状態をつづけていくのか。
 アメリカの軍の再編成のなか、日本の自衛隊は米軍のなかに組み込まれかねない状況になっている。そのうち、実質的に自衛隊は米軍と一体で動く軍隊になってしまうかもしれない。
 世界的に反米気運が高まっているので、アメリカとしても日本だけはテカとしておいておきたいのだろう。アメリカといっても共和党のユダヤ系の、イスラエル擁護の層である。

■イスラエルの強硬路線がつづくかぎり、パレスティナ問題は解決しない。パレスティナ問題が解決しなければ、イスラム教徒の反米気運もなくならない。反米気運があれば、テロの危険ありとして、アメリカはさらに神経過敏になる。悪循環の典型を見るようだ。
 アメリカの都市住民の多くは民主党系が多く、もっとリベラルな人も多い。しかし、ブッシュ政権は9月の小泉首相が退陣しても続く。このまま、一気に日本はアメリカにのみこまれてしまうのか。岐路である。

■元タイ大使で外交評論家の岡崎久彦氏などは盛んに、とにかく強い者にくっついていれば間違いない、日米同盟強化のみが日本の生き残る道……といった意味のことを主張している。親米右派の典型的な論理で、小泉内閣は彼の影響を受けていると思われ、相変わらずアメリカべったりの政策を続けている。

■こんなやり方に「右派」言論人と称される人たちからも批判が出ている。
 今の「繁栄」を維持するため、超大国アメリカの「下僕」であり続けるのか、あるいは経済水準が落ちてもいいから、「独立不羈」の精神をもった国になるか。
 もちろん、ぼくは後者でありたいと思っている。よく、タカ派の強行論者などが「アメリカと離れたら、経済的にも落ち込み、貧乏になる」といった意味のことをいうが、ぼくは日本人みんなが、独立不羈の精神をたもって、なおかつ貧乏になるのなら、それで結構といいたくなる。

■(一部ではなく)みんなが、おしなべて貧乏になることは、すべてマイナスのようにいうが、必ずしもそうではない。(物質的な貧乏のことといっているのだが)。みんなが、おしなべて貧乏になるということは、「生活にカネがそれほどかからない」ということに通じる。今の日本のように、快適で便利な生活を維持するには、あまりにカネがかかりすぎる。これが諸悪の根源であるといいたくなる。見回すと、個人も行政も、関心をしめるのは、みんなカネ、カネ、カネである。
 もちろん、カネも大事なことだが、それがすべてという風潮は悲しいし、情けない。何十年前も、カネは大事であったが、まだ「カネがなくても」何かが出来るという空気があった。社会に余裕があったというべきか。「武士は食わねど高楊枝」などという言葉もあった。
 そんな武士的な面がまったく失われ、「商人根性」ばかりが跋扈する。アメリカナイズの当然の帰結である。
 
■アメリカが終始リードして日本に押しつけた価値観には、今ぼくは懐疑的になっている。壊滅状態の日本を復興させるためには、仕方のない方便であったかもしれないが、そろそろ、根本的に考え直したほうがいいだろう。
 で、戦後のアメリカ支配の根源にある「東京裁判」が重要な意味をもってくる。

■2日の朝日新聞が何面もつかって東京裁判60年特集をしていた。
 井上ひさし氏が東京裁判を素材にした戯曲を書いているという。公演があれば、真っ先に見にいきたい。井上流の笑いと諷刺でどう裁いていくか、今から愉しみである。
 ところで、朝日新聞には、東京裁判がドラマ・映画・小説にどう描かれたかをあつかうコーナーをもうけていた。気になったには、NHKの大河ドラマ「山河燃ゆ」に一行も触れていないことだ。 あのドラマの脚本を書いたのでよく記憶しているが、東京裁判が大きな柱に一本であった。朝日の記者は意識的に落としたのか、あるいは知らなかったのか。24年前の放送なので、多分見ていなかったのでしょうね。今も十分見るに値する作であると思います。
by katorishu | 2006-05-03 02:09