遺伝子操作も金次第
2006年 05月 09日
■遺伝子情報の研究が進み、ヒトゲノムが解読され、いずれ遺伝子を操作して、「悪い遺伝子」を除去するような時代がくるかもしれないという。毎日新聞ウエブ版の社説で読んだのだが、困ったことである。毎日新聞の社説によれば、
「人類は遺伝子を改良できる富裕層とそれ以外に二極分化する」と、アメリカの分子生物学者が未来予測をしているという。
■経済格差による学歴格差どころではない。「遺伝的下層階級」という言葉も生まれているようだ。保険会社が遺伝子検査の結果を利用してもいいかどうかの議論が、すでに欧米では行われているという。遺伝子検査が健康保険や生命保険に導入されると、病気になりやすい遺伝子を持つ人は保険に入れなくなる恐れがあるそうだ。
■遺伝子情報の技術を、ビジネスチャンスだとして虎視眈々と狙っている人たちがいるということである。軍需産業や武器の売買で大もうけをしている人がいるのだから、遺伝子情報もカネになるとなれば、「ビジネスモデル」の構築とやらに励むのだろう。
■遺伝子を操作することで、運動能力や知能を高めたりする「エンハンスメント(強化)」が、そのうち現実のものになるかもしれないのである。
現在、遺伝性疾患の回避などに使われている「受精卵の着床前診断」が、そのうち、人間の能力や外観にかかわる遺伝子操作に使われる可能性が出てきたのだという。どういうことかというと、親が「好みの遺伝子」を持つ子供を選別できるというのである。
■ヒトラーの優生保護政策を、金持ちは個人レベルで行うということと同じである。そうなったら、人間は一層、化け物、妖怪の類に近づいていく。
昭和15年、日本でも優生保護法を制定したが、心身に劣化をもつ人は強制的に断種手術をさせられたようだ。法律の一部を読んだことがあるが、現在では「差別用語」にはいる言葉の羅列であり、条文を見ているだけで、おぞましい気分になる。「富国強兵」のためには「劣化した遺伝子」をもつ国民は邪魔だという精神が根底にある。
■計算上、「優秀」と判定された要素で構成された「人」など、本当に優秀であるかどうかわからない。現在、教育の分野で、「私立の中高一貫校」に富裕層の親が我が子を入れようと熱をいれており、大都会で顕著のようだ。親や塾の講師などによって「底上げ」された子供ばかりが集まっている学校で教育されても、「テストの学力」はあがるかもしれないが、英知や創造性、異なった価値観をもつ人への理解、対人コミューニュケーション力などが、うまく育つかどうか、はなはだ疑問である。
■ぼくは一貫して公立で、金持ちも貧乏人もごった煮のなかで、教育を受けてきた。時代状況が今とは違うが、世の中いろいろな人がいる……と学んだという気がする。日々、遊んでいた仲間の半分ほどは「中卒」で、彼等は本などほとんど読まないので、「知的刺激」を受けることが少なく、その後、上級の学校にいってから「知識の欠落」を感じたことはなくもなかったが。
■現在、「名門」とか「富裕層」ばかりが集まる「学校」にいくには、月々の「教育費」に10万20万とかけているらしい。「一人に月30万ぐらいかかりますよ」という言葉をある父親から直接聞いたことがある。ほかの人も、「別に高くはないんじゃないですか」と話していた。どこか、おかしい、と思うのが普通の感覚というものである。
■最近、義務教育の教科書の無償供与をやめようと、財務省が言い出しているという。有償ないし貸与にすれば、300数十億の予算が浮くというのだという。文科省は猛反対であるというが、当然である。
国の基礎中の基礎である教育にカネのあるなしで「差」をつけたりすれば、さらに文化は劣化する。バブルをつくって弾けさせたことに重大な責任のある旧大蔵省(現・財務省)の役人は何を考えているのか。米軍にまわす何千億もの「血税」を、減らしてでも教育にまわすべきなのに。それが出来ないなら、自分たちの給料を減額し、天下りをやめるべきだろう。退官後、数年、特殊法人や社団、公益法人等に天下りし、2,3年理事や理事長をつとめると、1000万2000万という退職金を手にするシステムを、一日でも早くやめさせるべきだ。
■ところで、ぼくの所属している日本放送作家協会は文化庁管轄の「社団法人」だが、理事などに誰一人天下りがいない。理由は「無償のボランティア」であるから。月1回の理事会に出ると、交通費として1000円が支給される。それだけである。一人ぐらい、こういうところへ顔を出す、変わり者の役人がいてもいいと思うのだが、みなさん「利口」なのですね。